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脚本家と俳優と流域リサーチ【中編】
2日目午後
お腹と心を満たし、最後の仕上げに「豊浜 魚ひろば」の市場の活気で精をつけます。
犬も歩けば川口さんの知り合いに当たる、と言っても差し支えないほど、川口さんはお店の人にかわるがわる声をかけます。大きな家族を見ているようでした。
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そしてついに、午前中つきっきりで案内してくれた川口さんに別れを告げ、師崎港の高速船乗り場へ急ぎました。
しかし船を乗り間違えて10分の船旅は思いがけず30分に。潮風とたくさんの日光を体いっぱいに受けて、ようやく篠島に上陸しました。
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まず、宿泊する「篠島ゲストハウス大○」近くの「八王子社」で涼んだあと、島の中央へ向かうほど険しくなる坂道とひしめく住宅を縫う狭い小径に翻弄されつつ、迷路を行くように散策しました。
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愛知用水が通水するまで水不足が深刻だった篠島では、井戸が欠かせません。
貴重な水場として古くから重宝された「帝井(みかどい)」、島民マユミさんのお宅の土間にある小さな井戸などから、いかに不自由していたかが伝わってきました。
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マユミさんはたまたま道で行き合っただけの我々を家に招いてくれました。
そこにある井戸は、近所の人々も使えるようにと深く掘られたために海水にいき当たってしまい、塩まじりの水しか出なかったといいます。マユミさんは子どものおむつを仕方なく塩水で洗ったがとても嫌だったと回想していました。
また、風雨を避けるため道の高さから半地下分低く家を建てたが、その道下に愛知用水の水道管を埋め込んだことで、庭を囲む石垣が緩んで迫り出してきたとも。
水の恩恵と、それを享受したがために生じる不利益や不安ごと。島民の暮らしから、その両面が垣間見えました。
そんな島の日常と隣り合わせになっているうちに陽が傾きはじめます。
「また勝手にきて」「(私が)いなかったら(あなたたちが)勝手にいていいから」と言われ、“田舎のおばあちゃんちで過ごしたあの夏休み”の心象風景を描かざるを得ませんでした。
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宿に帰る頃には、海岸の空が見事に虹のような色の層を作っていました。
みんなで足を海につけ、太郎は頭まで飛び込んで、“あの夏休み”に浸りました。
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3日目
再び高速船で風を切り、南知多町へ。朝から小さな鯛神輿を子どもたちがひいて歩くミニ鯛祭りがありました。
かつては約60人以上の若者で全長約10〜18メートル、重さ約1トンの巨大鯛神輿を担ぐ祭りでしたが、2020年から中止。この日は縮小して4年ぶりの開催だったようです。
南知多町も例に漏れず少子高齢化していると聞いていましたが、たくさんの子どもたちが頬を赤らめながらはっぴを着て参加していました。
内容を変えての開催でしたが、太郎が昨年行ったアートプロジェクト「流域で繋がったらめでタイね」の原点である鯛祭りで、賑わう地域の様子を実際に見ることが叶いました。
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流域で繋がったらめでタイね:
「流域で繋がったらめでタイねfeat.豊浜鯛祭り2022」をまとめた記録集を好評配布中。概要やお問い合わせについては「僕らのルネッサンス」公式Webサイトを参照されたい。
そして、旅は折り返し。
海を望む「つぶて浦」の大鳥居と巨大岩を見た後、内陸部を進み、「d news aichi agui」に向かいました。ここは機織り工場をリノベーションした建物で「ロングライフデザイン」をテーマに、さまざまな生活用品や地域の物産品が販売されていました。
さっぱりと洗練された雰囲気の中、併設されたカフェで一息つきます。
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つぶて浦:
海岸は約1,500万年前の地層。岩は火山活動や海底地震が作りだした大津波のエネルギーにより海底から浜まで運び込まれたと言われる。
対岸の伊勢の神様たちが石の遠投げを競った折に投げた石がつぶて浦に落ちたという民話がある。
涼んだ後は、知多市は佐布里池のほとりにある「水と生活館」に行きました。
水、愛知用水と人々の生活の関わりについて、水回りで重宝されていた道具類が数多く展示されておりリアルでした。
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続けて「知多市歴史民俗博物館」を見学し、主に漁や蚕など産業の観点からさらに詳しく、知多半島での暮らしとその変遷を辿りました。
ダイナミックな船の復元や、海苔養殖の手作り模型、寄贈の実物展示などにこだわりが見られ、こちらも充分なリアリティでした。
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知多半島、南知多町や篠島で実際に見た光景と、産業の構造や歴史的背景が結びついて体系的な理解が進み、流域の解像度が上がったように思います。
そしてそこには、「水」が大きなテーマとして絡んでいることが改めてはっきりしました。
文責:シエイナ
〈長野県地域発元気づくり支援金補助事業〉