君たちは「何者」だ

「君たちは何者だ」そんな言葉がふと頭をよぎった。教壇の教授はポンプの断面図のスライドを指差し、ポンプの構造と流体の話をしている。僕は自ら機械工学という道を選びターボ機械という講義を受けている。しかし、第1回の授業のガイダンスでさえ退屈と感じてしまう。今日の内容は今後の授業に興味を持ってもらうための、機械好きなら楽しいはずのものである。しかし僕は、眠ってしまわないようにスマホを開きブルーライトを浴びている。顔を上げ周りを見てみると、聞いているのは数人で、ブルーライトがあちこちで光っている。教授もこの異様な光景を当たり前のように受け入れ、淡々と講義を続けている。
「君たちは何者だ」
  この言葉は中学の時、美術の授業中に来年で定年を迎える先生が言った言葉である。どうしてその質問に至ったのかは覚えていないが、当時の僕は心の中で「中学生」と答えていた。誰も声をあげない中、先生は「君たちはまだ何者でもない」と続けた。「どういうこと?と思うかもしれないけれど、君たちはまだ何者でもない。君たちは中学生だけど、中学生には何もしなくてもなれる。義務だからね。自分で選んだ訳でもないし、なるために努力を積んだわけでもない。さて、君たちは何者になるんだろうね」そう言って微笑み、授業は続いた。
  なぜ今この言葉が頭に浮かんだのだろう。きっと自分が何をしたいのか分からなくなったからだと思う。いつからか足元には馴染みのレールが続いていて、ただ真っ直ぐに歩いている。気づけば3年生を通過していて、院への入学までは見えている。なぜ僕はこの線に乗っているのか、そんなことはもう忘れてしまった気がする。20歳を超えても僕は何者でもなくて、何者になれるのかも分からない。

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