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吐いた唾は飲めぬ

40代になったころ、思わず思った言葉を口に出してしまう自分に気づいた。
脳科学者が「思ったことを口に出してしまうのはおばさんの証」と言っているのを読んで「やめた」と思った。
思った言葉を言ってしまうのはたいてい汚い言葉か強い言葉である。
それを言ってしまったとき、周りにいる友達とか家族は「くすっ」と笑っていた。くすって笑った意図は「その場にいることがいたたまれなかった」からじゃないのかなと今になると思う。
人が吐いた汚い言葉を、とりあえず薄めようとしてくれていたのかなと思う。となると、私が思わず言ってしまった言葉を受け止めなきゃいけなかったのは、言われた相手とその場にいた周りの人、ということになる。被害は2人以上だ。なんていう罪深いことをしてしまったのかなと今なら思う。

自分をおばさん、と認めることが嫌だったのではなく
私が「この人美しくない」と思う人と同じ道を行ってしまいそうなのが
嫌だったのだ。
病院に来て私や周りの人を嫌な気持ちにさせる人っている。
これはあきらかに男女差がある。ある年齢以上の人に多いけれど
男性は私に向かって汚い言葉や強い言葉を吐くことはまずない。
電話だったり、向こうの思い通りにならなかった場合に私を「威圧」するために登場する時はそういう言葉を吐くけれど、まあそれもだいたい電話だ。
私に直接「てめえ」とかとは言わないしむしろ丁寧に扱ってくれることが多いのだが、その口で横にいる奥さんを口汚く罵る場合はある。というか多い。
「ねえ、先生そうですよね。だからうちのやつにも言ってるんですよ」
「てめえ、だから言ったじゃねえか。先生もそうやって言ってんだろ」
これが同じ男性の言う台詞である。いや、私まだここにいますけどね。全部聞こえてるけどそれはいいのかな?と思いながら聞く。

女性は強くは言ってこないけれど、去り際にぼそっと「感じ悪」とか
「なら早く言ってよ」とか、聞こえるようになのか、思わず口から出てるのかわからないけれどそういう言葉を言って去って行く。まあたいていそういう人はもう来ないけれど。

だから、私は人前で「ぼそっ」と言ったり強い口調で物を言ったりすることはないようにしていた。

のに。昨日やってしまった。
おうちに古本ありませんか?というセールス電話。
普段だったら「ありません」って即座に切るのだけれど、本にあふれかえってる本棚を見てため息をついたばかりだったため
思わず対応してしまった。「あります」と言ってしまったのだ。
こういう話は色々裏があって、結局面倒なことになるな、って知ってたのに
「古着」でも「アクセサリー」でもなく「古本」というところにそそられてしまった。
古本に値段がつかないのは知っているから、それでもいいから持って行ってくれれば御の字という気持ちで、セールスの電話でもそれを確認した。
「値段がつかない場合もあります」と言われたので「はい。それでも持って行ってもらえますか?」「はい」と答えたので対応した。
で、本をかき集めて出したら案の定「値段はつきません」。それは想定内。でも持って行ってもらえるんですよね?と聞いたら「いえ。買い取りじゃない場合持ち帰れないんですよね」

言ってたことと違うじゃん。このかき集めた手間と、また戻さないといけない手間と、そもそもこういう事をスルーしてきたのに、なんで今日は引っかかった!という自分の甘さで腹が立ってしまって
思わず一言ポロって言ってしまった・・・。

もう吐いた唾は飲めぬ。知ってる。やらないって決めてたのにな。

古本を、ただ持って行ってくれるなんて上手い話があるわけないんだぞ。
自分に言い聞かせる。
もう唾は吐かない。もう一度自分に言い聞かせる。


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