見出し画像

全さんとジョーカーのタバコ

周りに、あからさまに喫煙する人がいなくなって数年経つ。
あからさまに、というのは、その姿が見えないという意味で
患者さんでタバコの臭いがする人は割といるし
コンビニでタバコを買う人の姿もよく見るから
表立って吸っていないだけなんだろうなと思う。

ただ、夫は団体職員だが、もう何年も喫煙者は入社してこないと言う。
テレビや映画、本やマンガでも「タバコを吸う」という描写が
なくなった。

私は20歳になってからタバコを吸い始めた。
大学の教室前には灰皿があり、ご飯を食べに行ってもカラオケをしても
ボーリングをしてもどこにもここにも灰皿があった。
タバコの自販機もあちこちにあったし、周りは喫煙者ばかりで
自分のタバコがなくなれば人にもらったりあげたりしあった。
麻雀でリーチをかけたらタバコに火をつけるとか、
山に登ってピークに着いたらタバコに火をつけるとか
ルーティン的なこともしていた。
マイルドセブンを吸っていたが記憶にあるのは210円の時代。
今はいくらなのか、マイルドセブンの名前が変わってから
久しいけれど、今の名前もわからない。
喘息があったので相当息苦しかった時もあったけれど
風邪をひいても妊娠してもとにかくやめなかった。

私はタバコが好きだった。臭いも味も仕草も、人が吸っている姿も。
でも、よく喫煙者が言っていたけれど何が嫌って
夜中にタバコの在庫がないと知ったときの焦燥感が嫌だった。
コンビニがあちこちに出来ていつでも買うことはできたとしても
家にもうタバコがない、と思っただけでそわそわして
その支配されている感じが唯一嫌なところだった。
タバコを吸わずにいられないことも支配だったのかもしれないけれど
好きだったからそれはいいのだ。
そういうしている内にタバコの値段はどんどん上がり
公共の場から灰皿は消え、吸う場所さえ探さないといけないようになった。
子供を妊娠しても産まれても吸い続けたが
換気扇の下でタバコを吸おうと思って火をつけた瞬間に子供に泣き出され
つけたばっかりのタバコと子供と瞬時に迷ったことも正直ある。

そういう、自分が嫌になることとか
焦燥感とか不自由さが、やっと私に「タバコやめるかな」という
気にさせた。三人目の出産時の入院が最後のチャンスだなと思った。
昔は病院にも喫煙所があったけれど、それが撤去されてまもなく
3人目出産で入院をした。1週間ほどの入院だから
禁煙にはちょうどよいのだ。

先日、娘が「私何グラムで産まれたの?」と聞いてきたので
答えたら「小さいね」と言うから「私タバコ吸ってたからさ・・
ごめんね」と言ったら「お母さんタバコ吸ってたの?よくやめられたね」と言うから「あんたを産んだときにラストチャンスと思ってやめた。
あなたのお陰」と言ったら苦笑いしていた。

さて、そんなタバコ。
やっぱり嫌いじゃない。さすがに「好き」ではなくなったけれど。
夫も同時期にやめたのだが元からそんなに好きじゃなかったらしくやめた今となってはタバコの煙も嫌なんだそうな。
私は嫌いじゃないから本や映画にごく稀に出てくる喫煙シーンは
「ほう・・・♥」となる。

特に最近読んだ千早茜さんの「神様の暇つぶし」という本に出てくる
全さんという男の人が巻きたばこを吸うシーン。
千早茜さんは大好きになってしまいそうな作家さんで
でも好きになると色々困るので好きになりたくないと
一心に願ったのだが、やっぱり無理でどつぼにはまって本を買い漁っている。でも、もったいなくて読まずに置いてあり
大好きのきっかけになった「神様の暇つぶし」を熟読4回目である。
私が本を読み返すなんて本当に稀なことなのだけれど
全さんというおじさんがかっこよすぎてたまらん。
この全さんにカメラマンと喫煙者の肩書き以外に何があてはまる?と
考えても、もはや浮かばない。
カメラマンの世界って未知だけど何事も「カメラ」を通すことで
その間に自分の感情を無にさせる何かがあるんじゃないのかと思っている。
どれほどの熱情を持って写真を撮ったとしても「カメラ」を通る間に
無になる。そんな機械?カメラ。
どらえもんのガリバートンネルみたいに、そこを通った人が
大きくなったり小さくなったりするツールというか。
いや、ただのイメージなんですが。
その「無」な感じが全さんにはぴったりで、しかもその全さんは
タバコを吸ってないと絶対だめ!
今私の好きな人は?って聞かれたら「全さん」って即答できるぐらい好きです。
そしてもう一人。
ジョーカーの続編を鑑賞するために、先日次男が一作目を見ていた。
私は春にジョーカーを観て以来「めっちゃ面白い」と言い続け
しばらく映画アプリでも観ていたのだけれど
久しぶりに先日観たらそりゃもうまんまと気が滅入った。まあ、そこが良いところなのだが。
で、ジョーカーがピエロのメイクをしているときにタバコを吸ってるシーンがめちゃくちゃかっこよいのだ・・・。
タバコって短くなってからが醍醐味で
その短いタバコを持つ手の角度や、煙が目に入ってくる時の
表情とかそれらが全て「かっこよい」。

全さんとジョーカーの喫煙姿を見ても、私も吸いたい!とは
思わなかったけれど「タバコが似合う人」ってやっぱり存在して
タバコ嫌いじゃないんだよな・・・と改めて思った。



いいなと思ったら応援しよう!