走馬灯を増やす人(名古屋編)

↑前回


休日の夕方ごろ、ぼーっとしていたらいきなり電話が掛かってきた。例の友達からだった。
「今、名古屋いるんだよ。マッチングした子に会いに来た」
2時間かけて宇都宮へ女の子に会いに行く人間とは知っていたけど、もはや名古屋にまで足を伸ばしていた。

「めっちゃ金飛んだ。交通費とホテル、飯も全部出したし誕生日が近いからってプレゼントも要求されて断れなくてそれも買った。やべーわ」
いくら払ったかを細かく教えてくれたが、休日の1泊2日旅行としては贅沢過ぎる金額で驚いた。
そんなにタイプだったの? と聞いたが別にそこまでめちゃくちゃ好みの顔って訳ではないようだった。
それなら何が良かったのかを聞いたら、
「会ってくれるから行った」
そんな答えが返ってきた。

自分だったらマッチングアプリの子に会う為に新幹線に乗って行けるかというと、よっぽど気になる子ならギリギリ頑張るかどうかだろう。
行ったとして、誕生日プレゼントをねだられても抵抗がある。
もしあげたら今後もズルズル搾り取られないか不安になって断ってしまう。
「まぁでも名古屋楽しかったよ。普通に旅行先として良かった」
金はともかく、プラスの思い出になったようだった。変に搾取されないと良いね、なんて適当に話していると明日の仕事に間に合うよう帰らないとやばい、と言って電話が切れた。



僕はこの一回で名古屋の子とは関係が終わると思っていた。
「名古屋の子がこっち来てウチに泊まる事になったわ。クイーンサイズのマットレス用意するんだけど、部屋の掃除しないといけなくてさ、メシ奢るから部屋片付けるの手伝って」
予想を覆して、あいつはしっかり関係を保っていた。

普段はシングルサイズの折り畳みベッドマットを2枚重ねておいて、女の子が来たら1枚を横に敷いてダブルサイズに拡張させていた。
良い使い方だと思っていたが、全部捨てて変えることにしたらしい。
ものすごい広い家ではないので、クイーンサイズを置いたらほぼマットで埋まる気がするけど。
とはいえ、部屋をマットが埋める光景は面白い
しメシも奢ってもらえるから片付けに行く事にした。

当日、異常な汚さで掃除は難航した。
机の上に何本も飲みかけのペットボトルが置いてあるのは序の口で、バルコニーに出たらカビだらけのバケツの底に真っ白な何かで固まった小銭が大量に出てきた時は本気で引いた。何したらこうなるのか想像も出来ない。
目に見える大きなゴミの掃除を済ませると、圧縮されて丸められていたクイーンサイズのマットレスを開封した。

思った通り、部屋のほとんどをマットが覆い尽くした。ただ、ベッドと違って高さがないからか、そこまで邪魔に感じなかった。
「あとは今週中に全力で片付けるわ」
ゴミを捨ててから、近所で有名だというステーキ屋に行った。

それから少しして、無事にお泊まりが楽しめた報告を聞いた。
お互いの場所を行き来して、上手い具合になってるなら付き合ってるじゃないと言ったら微妙な反応をされた。
「俺、来年の4月に名古屋に異動するって嘘付いてるんだよな。名古屋で同棲しようって話してるんだけどバレる前に切らないと行けないのよ」
どうしてそんな事言ったのか聞くとその方が喜ぶだろ、とのことだった。
ろくでもないやつだなぁと思ったけど、ご飯も全て奢ってプレゼントもあげてるから、女の子もなかなか上手い立ち回りをしている。
この関係性、セフレだな。

ズルズル続けても良いと思うけど、彼女を作りたいなら切った方がいいんじゃない? と言ってみたけどあんまり良い反応は無かった。


相手から強く求められると応えたくなり、応えると対価としてセックス出来る。
それに、相手の要望が無茶苦茶な程、叶えてあげた時の征服感や満たせる承認欲求は強くなる。
承認欲求と性欲が満たせると出費はそこまで気にならなくなる。
わざわざ名古屋まで行ったり向こうが来るのに合わせて家を綺麗にしたり、僕には遠い話に思ったけど、行動の原理を考えると同じような感覚(チンポが脳を支配するやつ)で僕も気持ち悪い事をしてまった事もある。
サクッと切れない気持ちも理解出来てしまって、同情しつつ不愉快になった。

いいなと思ったら応援しよう!