今更ながら「ひぐらしのなく頃に業/卒」に学/入した。
2021年6月20日は綿流しの日ということで、「ひぐらしのなく頃に業」の一挙放送があったので観てみました。正確には20日付近の日曜日だそうで、日付は年によって変わります。
以下、「ひぐらしのなく頃に」全般にに関するネタバレが含まれますので、自力で考察したいんだいという方はこの指とまれ……ではなく回れ右していただければと思います。
書いている間に「ひぐらしのなく頃に卒」が始まってしまいましたが、まだ見ていないため、また知識不足のため誤認している内容が含まれる可能性がある点はご承知おきください。
――――――――――
「ひぐらしのなく頃に業」は2020年10月から2021年3月まで全24話で放送された「ひぐらしのなく頃に」の14年ごしのリメイク……と思わせた新作でした。前半の12話は「ひぐらしのなく頃に」の「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」に似て非なる結末を迎える「鬼騙し編」「綿騙し編」「祟騙し編」で構成されています。
「ひぐらしのなく頃に」はループものとして、ミステリーとして、ホラーサスペンスものとして非常に秀逸な作品です。大筋としては惨劇を回避するために何度も何度も死に戻り、どう転んでも悲劇の結末に至ってしまう絶望の中で、奇跡一手を掴み取ろうと奮闘する物語です。この何度も繰り返すシステムを使ってリメイクのふりを演出したのです。このやろー! 悔しいぜ。
「鬼隠し編」で起こってしまう惨劇の原因はコミュニケーション不足によるものでした。「鬼隠し編」と似て非なる「鬼騙し編」では先手を打ってコミュニケーション不足は解消されるものの、なぜか惨劇が起きてしまいます。「綿騙し編」も「祟騙し編」も「綿流し編」や「祟殺し編」の惨劇の原因を先手を打って解消したにもかかわらず、なぜか惨劇がおきてしまいます。一体何が起きているのでしょうか。
「ひぐらしのなく頃に業」の後半の12話の「猫騙し編」「郷壊し編」では、なぜ「鬼騙し編」が始まってしまったのかが描かれています。
「ひぐらしのなく頃に」で何度も何度も時間にして100年もの間、死に戻りを繰り返していたのは古手梨花でした。「猫騙し編」では100年を共に繰り返してきた人外、羽生が「死の直前の記憶(誰が自分を殺したか)を忘れない力」「繰り返す者を断ち切る剣の存在」を梨花に託して消え去ってしまいます。ある意味、自殺可能な剣(の欠片)を手に入れた梨花は、あと5回死に戻ってもダメだったら諦めようと心に決め、この5回を使って解答編が展開されるのかと思いきや、ダイジェストのようにあっさりさっくりと残機がゼロに。ところが何やかんやあって雛見沢に残ることを決めた最後の死に戻り。これまでが嘘のようにすべての事がうまく運びます。うまく運び過ぎています。まるで自分以外の誰かが死に戻って乱数調整しているかのように。疑念を持った梨花はトラップを仕掛けて、死に戻って乱数調整をしていた犯人を突き止めます。犯人は北条沙都子でした。紅く瞳を光らせた沙都子に銃口を突きつけられたところで「猫騙し編」は閉幕。今のところ、ここが最新の世界線だと思われます。
続く「郷壊し編」は、沙都子がどのように死に戻り能力を獲得して「鬼騙し編」に至ったかの物語。おそらく「ひぐらしのなく頃に」で奇跡の一手を掴み取ったあとの出来事だろうと思われます。風土病も改善し、雛見沢に100年囚われて外の世界に憧れていた梨花から、一緒に都会のお嬢様高校に進学しないかと誘われた沙都子は、頑張って勉強して見事受験に合格します。しかし高校生活は順風満帆とはいかず、勉強に、というより空気についていけない沙都子と梨花の距離は物理的にも精神的にも離れるばかり。楽しんでいる梨花と落ちこぼれの自分。絶望の淵で久しぶりに雛見沢に戻った沙都子は、神社の宝物殿に導かれ、異空間に飛ばされます。そこで出会った羽生のような人外とのやり取りの中で、死に戻る能力を手にするのでした。
死に戻って梨花の都会への進学を止めようとするも梨花の意思は固く、なかなか進学を止めることができません。その度に自殺を繰り返し、何度も何度もやり直します。神経衰弱をやり直してパーフェクト勝ちするために死に戻れるほどに死ぬことに対して戸惑いがありません。そんな負けず嫌いによるものか、沙都子の目的はいつの間にか梨花と幸せな日々を歩むことから、惨劇を繰り返して梨花の都会への進学意思をヘシ折ることにシフトしてしまいます。最終的な結果さえよければそこに至る過程はどうでもよいというのが繰り返すものとしての沙都子の生死感で、梨花とは大きく違います。ところが実は過程はどうでもよくなく、惨劇を繰り返すうち、惨劇を引き起こすはずのキーパーソンが改心し、惨劇が起こりにくくなってしまいます。だったら自分で起こさなきゃ。風土病を悪化させる薬を盗み出したところで「郷壊し編」は閉幕。ここから「鬼騙し編」に繋がります、たぶん。
言ってしまえば沙都子の梨花に対する愛憎の物語。ダイナミック痴話喧嘩。いや能力使って高校生活改善しろよ……! とツッコまずにはいられないのですが、すでに目的が梨花の心をヘシ折ることになってしまっている沙都子にツッコんでも聞く耳を持ってもらえないことでしょう。2021年7月1日から放送が始まった「ひぐらしのなく頃に卒」では仲直りして幸せな日々に戻ることができるのでしょうか。
以下、現時点で気になっていることメモ。
・ちょいちょい反転しているらしい。
私自身が原作と細かく見比べたわけではないですが、文字列や右手か左手かなどが反転している場面があるそうです。作画ミスとも思えないので何かしらの意図があるのでしょう。目に見えない心の内も反転していたりするのでしょうか。
・沙都子ひとりでどうにかできるのか。
風土病を悪化させる薬を盗み出したわけですが、それだけで惨劇を引き起こせるのでしょうか。「鬼騙し編」と「綿騙し編」あたりはそれぞれ竜宮レナと園崎魅音と二人きりになれそうなシーンが存在したので何とかなりそうな気もしますが、「祟殺し編」や「猫騙し編」はどうなんだろうなと思います。もうひとりくらい協力者や黒幕がいてもよさそうです。特に「猫騙し編」は狂い方が何だか異質なんですよね。当の本人もおかしな感じになってるし。
・梨花はどう打って出るのか。
沙都子がとりあえずの元凶とわかったところで梨花はどうするのでしょうか。梨花が有利である点は「死の直前の記憶(誰が自分を殺したか)を忘れない力」の獲得を沙都子が知らないことと「繰り返す者を断ち切る剣の欠片」を持っていることです。沙都子を断ち切ってもいいですが、それは梨花の望む世界に繋がっているのでしょうか。どちらかと言えば自殺を仄めかして脅す使い方をするような気がします。
・高校の梨花は現実の梨花なのか。
沙都子が元凶とは言いましたが、そもそも梨花が高校生活の中でもう少し沙都子に歩み寄っていればこんなことにはなりませんでした。雛見沢を出られて調子に乗ってしまっていたのでしょうか。それにしても沙都子を蔑ろにし過ぎているような気がします。風土病が治ったとされてはいるものの、沙都子が不信から幻覚を見ている可能性については残しておきたいと思います。幻覚を見ているものが死に戻るとどうなるのだろうか。不信は不可逆の蓄積を繰り返すのだろうか。蓄積しているのであれば「いや能力使って高校生活改善しろよ……!」の解のひとつになりえます。
・キーパーソンの改心の影響範囲はどの程度か。
この点は業のギミックでいちばん私が気に入っているところです。改心について終盤で述べられたことにより、前半の「鬼騙し編」「綿騙し編」「祟騙し編」の見え方がガラリと変わります。わかりやすいのは「祟騙し編」です。一見すると沙都子を叔父の虐待から救う物語でしたが、沙都子の叔父が改心して虐待をしなくなったらしい事実を知った後に見返すと「祟騙し編」の沙都子は惨劇を起こすために虐待されている演技をしていたことになります。「鬼騙し編」や「綿騙し編」はどうでしょう。沙都子の叔父が改心しているとレナがリナを敵視することもないのでレナによる惨劇が自然発生しない可能性があります。それでも「鬼騙し篇」で惨劇が起こってしまったのは沙都子の干渉によるものでしょうか。このように前作の「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」を知っているからこそ「あのときは裏でこれが起こっていたから惨劇が起きた」と私たちに刷り込まれている事項のすべてまたは一部が実は自然には起きていない可能性があり、このあたりを精査することが真実に近づくためのキーであると考えています。
・沙都子は何度でも繰り返せるのか。
神経衰弱でパーフェクト勝利を収めたり、野球でホームランを打つために軽率に死に戻っていると思われる一方で「猫騙し編」では麻雀牌を使った燕返しに失敗しています。死に戻れる回数に制限があるのか、死に戻れる条件に制限があるのか。メタ的な話をすれば梨花と同じ世界線に行くためには梨花が死んだ後に沙都子が死ぬ必要があるため、残機宣言をした梨花を燕返しごときで軽率に殺してしまうのは物語の展開上、都合が悪かったということも考えられます。この場面では世界線移動が起こっていませんよという証左なのかもしれません。
・沙都子の兄は生きているのか死んでいるのか。
「鬼騙し編」「綿騙し編」では避けられているのではと思うほど――いや「鬼隠し編」とかでも避けられているのだけれど別の意味で――沙都子の兄に関する言及がなく、これまでであれば行方不明と見せかけて診療所の地下で風土病の療養をしているはずですが、改心が繰り返された世界で、彼がどうなっているのかはいまひとつよくわかっていません。沙都子が地下で別れを告げるとベッドから消えてしまうシーンがあり、沙都子が死に戻る中で逃すなり手にかけるなり、何かしらの干渉をした可能性が疑われます。風土病自体がなくなりはしないでしょうが、完治が認められた世界線は存在するので元気に生きていても不思議ではないんですよね。彼の生死は園崎詩音の心持ちに関わってくるので気になるところ。
・繰り返す者を断ち切る剣の本体はどこか。
なぜ欠片しかなかったのか。欠片は本物なのか。欠片でも本体相当の力は発揮できるのか。制限されているなら何ができて何ができないのか。というか本体でそもそも何ができるのか。
・エウアは何者なのか。
何のために沙都子に絡んでいるのか。楽しんでいるだけなのか。人知を越えた人外の考えは人にはわからぬ。
みなさんは、どんな物語が待ち受けていると思いますか?
余談
「ひぐらしのなく頃に卒」を毎週観るか、定期的にありそうな一挙放送で観るかは考え中です。中途半端に見て1週間待たなきゃいけないのツラくないですかこの作品……!