リサイクリング(組替調整)は何がわかりにくいのか?
1 リサイクリングは違う種類の利益の振替えである
リサイクリングとは、過去(当期を含む。)のその他の包括利益(以下「OCI」。)の純利益への振替えです。
OCIの典型がその他有価証券の評価益(その他有価証券評価差額金)なので、その他有価証券を売却してこれが純利益に振替えられることといってもよいでしょう。
いったん計上した包括利益を種類の異なる利益に再び組み替えるため「組替調整」や「再分類」とも呼ばれます。
この前期のOCI50円を当期の純利益に振替えるのがリサイクリングです。
なお、当期にその他有価証券を取得し、それを当期に売却すれば、OCIが当期に発生し、同額のリサイクリングを行います。
2 組替調整額の控除だけではなく、純利益への加算も含む
「包括利益の表示に関する会計基準」には、リサイクリングの規定がありません。
あるのはリサイクリングを行った場合の「表示」の規定です。
日本基準では、リサイクリングをするのが前提であり、これをあえて行うことを規定する必要がなく、リサイクリングを行った純利益からスタートして包括利益を計算する場合の「表示」が規定されているだけです。
組替調整額は、リサイクリングを行った場合の包括利益の計算上の調整額です。
3 振戻処理とは関係がない
いわゆる振戻処理とリサイクリングは関係ありません。
振戻処理は、時価評価した翌期首で時価評価されたその他有価証券を原始取得原価に戻す処理です。
時価評価が本来的な処理なら原始取得原価に戻す必要はありません。
原始取得原価に戻すのは、売価と原始取得原価との差額で売却益という実現利益を算出したいためと考えるべきでしょう。
いわゆる振戻処理自体は、リサイクリングとは関係がありません(その他有価証券を前期末の時価で売却すれば、振戻処理の金額と組替調整額は同額ですが、それがリサイクリングということではありません。)。
4 現行の仕訳は、今のリサイクリングを行う処理を前提にしているので今の仕訳で考えるとわからなくなる
現行の仕訳は、包括利益を前提にしているのではなく、純利益を前提にしたものです。
包括利益を考えると上手くいきません。
包括利益は、時価の変動額です。
別に期首に時価が原価まで戻っているわけではないので、期首の振り戻しはしないで考えるとよいでしょう。
5 リサイクリングをしないとキャッシュ・フローとズレる
リサイクリングをした場合としない場合の当期の数値を先ほどの例で比べてみましょう。
リサイクリングを行わない場合、前期のOCIを当期の純利益にしないのですから、当期の純利益はゼロになります(日本の会計基準ではあり得ませんが)。
このようにリサイクリングを行わない場合、キャッシュ・フロー(この場合150円-100円=50円)が純利益(0円)と一致しません。
リサイクリングをしないことでキャッシュ・フロー情報と純利益が一致しないこととなるのです。
リサイクリングをしなければ、純利益がキャッシュ・フロー情報の裏付けを欠く、業績指標としての有用性の無い利益になってしまいます。
これがリサイクリングを行うべき最大の理由です。
また、同額のOCI(累計額)を繰越利益剰余金に振替えれば、利益を経由せずに株主資本が増加することになり、クリーン・サープラス関係*を害し、企業評価にも役立ちません。
*資本の増減と利益が資本取引を除いて一致する関係
「修正国際基準」では、のれんの償却とともにリサイクリングを修正事項としています。
これまで国際基準に合わせる形で会計基準の改正が行われてきましたが、この2つの項目は、国際基準に合わせることはないといえるかもしれません。