まっちゃんの旅立ち:小さな命と向き合うということ
セキセイインコの雛「ふうちゃん」を迎えて
先日、セキセイインコの雛「藤(ふじ)」(通称:ふうちゃん)を迎えたことを報告した。このとき、ブリーダーの元には、数日後に生まれた雛たちもいた。そのうちの1羽、「まっちゃん」を購入した飼主と交流する機会があった。
鳴かないあの子
「まっちゃん」と名付けられたその雛の飼主は小学生だった。小さな手でしっかり握りしめる姿に、筆者は複雑な感情を抱いた。
まっちゃんは、ほとんど鳴かない。全く鳴かないわけではないが、時折聞こえる鳴き声はか細く、今にも生命の火が消えてしまいそうな印象を受けた。
しかし、小学生の飼主にはそんな不安はなさそうで、強い握力でまっちゃんを包み込んでいた。
個体差という現実
有体物には個体差がある。同じ種類であっても、個々の違いは明確だ。
ブリーダーによると、まっちゃんは元々あまり鳴かない性格のようで、健康状態に問題はないとのことだった。一方、ふうちゃんはブリーダーの元では「平均的」だったが、筆者の手に渡ってから元気さが増したという。
対照的な2羽を目の当たりにしながら、個体差とはこういうものだと理解しつつも、小さな命を託された責任の重さを改めて感じた。
まっちゃんの異変
先日、約10日ぶりにまっちゃんと小学生に再会した。相変わらず握られているまっちゃんだったが、前よりも大きなケージ内をてちてちと歩き回る姿が見られた。藤よりもずっと速い足取りに、「追われているのだろうか」と思いを馳せた。
しかし、まっちゃんは立ち止まった後、大きくのびをしてから震え始めた。その震えは、まるで極寒の地で氷水に落ちたように激しく、不調を訴えるものであった。
セキセイインコの脚気とは
小学生の話によると、親御さんから「脚気だ」と言われ、日光浴を指示されているとのことだった。
セキセイインコの脚気とは、主にビタミンB1(チアミン)の不足が原因で発症する病気である。主な症状は以下の通り。
筋力低下:足や翼の筋力が弱くなり、歩行や飛行が困難になる。
神経症状:震え、痙攣、平衡感覚の喪失などが見られる。
食欲不振:元気がなくなり、食欲が低下する。
呼吸困難:重症化すると全身で大きく呼吸する様子が確認される。
脚気の治療・予防には、ビタミンB1を含むバランスの良い食事が必要不可欠だ。また、専門の獣医師による適切な治療が望ましい。
素人判断の危険性
セキセイインコは本能的に弱さを隠すため、不調が明確に表れるときには病気が進行している場合が多い。素人判断による対応は非常に危険であり、誤診や適切な治療の遅れが命に関わることもある。
筆者はその場で「早く病院へ」と主張することもできたが、現実的に小学生やその家族がすぐに対応できる状況ではなかった。「早くよくなるといいね」と声をかけるのが精一杯だった。
小さな命に思うこと
小さな飼主と小さなセキセイインコ。どちらも筆者より小さく、無邪気で儚い存在だった。
小さいものが小さいものを愛でる姿と、小さいものが大きな存在に翻弄される姿を同時に目にしたとき、自分ならどちらを優先するだろうかと自問した。
もし、まっちゃんと飼主が筆者の監督下にいたなら、間違いなく口うるさく指導していただろう。しかし、何が正解かを決められるのは、自分自身だけなのだと痛感する。
明日は訪れたが
記事を更新した翌日、ブリーダーから連絡があった。まっちゃんはその朝、息を引き取ったという。
亡骸を前にした小学生が何を思ったのか、今年34歳になる筆者には想像できない。しかし、「生き物が動かなくなる」という体験は、命の尊さを知るための第一歩であるとも思う。
まっちゃんが教えてくれた命の重さと、その存在が残した小さな足跡を、筆者は決して忘れないだろう。
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