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廃業の現実とその影響:知られざるリスクと心構え

はじめに

 あなたは「起業」に対し、どのようなイメージを持っているだろうか。

 夢や憧れを感じる人もいれば、自分とは一生縁のないものとして線を引いている人もいるだろう。実際に起業した筆者は完全に後者であった。
 どちらにしろ、起業・開業・独立というと、何となく華々しく感じるのではないか。一方で、失敗や廃業という現実もあるということを、どれだけの人が意識しているのだろうか。成功した場合の利益を追い求める人の多くは、廃業した場合に起きることについてあまり考えないことが多い。この点、成功の夢を見る人にこそ、事業がうまくいかなかった場合にどう対処するかを知っておいてほしいものだ。

 廃業には物理的、金銭的、精神的な影響が伴い、その後の人生に大きな影響を与えることがほとんどだ。――というわけで。当ページでは、廃業の現実とその後の影響について掘り下げようと思う。


1. 廃業に伴う金銭的な影響

 廃業とは、事業の終了を意味するが、これに伴って金銭的な負担が生じる。事業の運営に際し、どこかに金を借りている場合、返済に困ることもある。特に、自営業者や個人事業の場合、個人の財産が事業に直結しており、廃業の際には個人資産の売却や負債の返済をゴソッと求められることとなる。

事業の資産と負債

 想像しづらいと思うので、ここで一つ。

 事業の開始時、銀行から融資を受けていたとする。融資とは、簡単に言えば「借金」だ。ここでの借金は、返済しない限り残るし膨らむ。つまり、廃業しても借金は残る。
 もし、事業に十分な資産がなく負債(借金)を返済できない場合、「返せません、ごめんなさい」では済まないことは想像できると思う。では、実際にはどうなるのかといえば、個人の貯金や不動産を使い、返済することになる。

具体例

 もう少し具体的な例を出そう。

飲食店を経営するAさんは、事業を拡大するために銀行から1000万円の融資を受けた。しかし、事業はうまくいかず、結果的に廃業を決断した場合、店舗の資産である厨房機器や家具、土地などを売却し、金を返すことになる。それでも完済には不十分な場合、残った借金がAさん個人の保証だとすると、この残債務はAさん自身の貯金や自宅を売却したお金で返さなければならない。
 このようなケースでは、事前に負債を減らすために交渉を行うことになる。また、廃業後に負債を整理するため、弁護士や税理士に相談することになるだろう。


税金や未払いの請求

 廃業後、意外と大きな問題になるのが、税金の未納分である。何らかの事情があり廃業したAさんだが、税金に関しては「そんな事情知ったこっちゃない」の世界。もし未納分があるとすれば、廃業後だろうが何だろうがお構いなく、税務署から支払い督促が届く。

具体例

 たとえば、事業を営んでいるBさんが過去3年間において、年間1000万円を売り上げていた場合、消費税をはじめとする税金は事業終了後に支払う義務を負う。(税金は遅れてやってくる。)
 このBさんが売上減少を機に廃業を決意した時点の未払い額が100万円に達していたとする。これを未納のまま廃業すれば税金はチャラになるのかといえば、そんなわけもなく、廃業後、税務署から再度支払うよう求められ、”泣きっ面に蜂”状態となる。

 もし、税金を支払う余裕がなければ、場合により分割払いや減免措置の交渉が必要となるが、必ず認められるわけではない。また、税金以外に未払いがあれば残る。これらを放置すると、将来的に法的措置を取られる可能性がある。こういったリスクを避けるためには、商業契約や取引先との支払い合意の内容に基づき、返済スケジュールを組まなければならない。


具体的な対策と回避方法

 事業を廃業する前に、できる限り負債や未払いの税金を減らすためにできる対策がある。以下は、その一部だ。

  1. 債務整理の相談:
     廃業を決定する前において、債務の金額があまりに大きい場合は、債務整理(自己破産、民事再生など)を検討する。これにより、一定の負債を免除してもらう、又は返済計画スケジュールを猶予してもらえる可能性がある。

  2. 税務署との交渉:
     未払い税金がある場合、税務署と交渉し、納付の猶予、又は分納(分割払い)にしてもらえる場合があります。特に、個人事業主や中小企業の場合、事情を説明し協力を求めると協力を得やすい。

  3. 事業資産の売却を早めに行う:
     廃業前において、事業資産を売却することで負債返済に充てる。店舗や設備など早めに売却することで、資金を調達し、廃業後の負担を減らすことが可能となる。

  4. 専門家への相談:
     廃業時に発生する問題や負債の取り決めについて、弁護士や税理士などの専門家に相談し、アドバイスを受ける方法もある。専門家への相談にうより、法的なリスクを避け、問題解決に向けた具体的なプランを立てることができる。

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2. 精神的な負担とその影響

 起業家にとって、事業は生活の一部である。廃業により、突然それを失うことは大きな喪失感を伴う。特に、事業に長期間携わっていた場合、その影響は深刻だ。

  • 自己評価への影響:
     経営に失敗したとき、自分の能力や判断力を疑うことがある。廃業後、一般的に自己評価が下がりやすく、その後の人生に悪影響を及ぼすこともある。

  • 社会的な孤立:
     廃業を経験すると、社会的な地位やネットワークが大きく変わる。自分の事業があった頃に築いた人間関係が消え、孤立感を感じることも少なくない。


3. 家族やパートナーへの影響

 起業に際し、家族やパートナーの理解・サポートが不可欠だ。同様に、廃業についても支援が不可欠だ。廃業後は、生活水準の変化や金銭面での不安が家族に影響を及ぼす。

  • 生活水準の変化:
     廃業後は、収入が減少することから、生活費や子どもの教育費などに影響が出ることがある。これが家族全体にストレスをもたらし、夫婦関係や親子関係にも影響を及ぼすことがある。

  • 精神的サポート:
     事業がうまくいかなかったとしても、家族やパートナーが支えにより、心身の安定を保てることも多いが、経済的な負担やストレスが高まると、関係に亀裂が入ることもある。

1. 生活水準の変化

 廃業後の生活水準の変化は、家族全体に大きな影響を及ぼす。例えば、月々の収入が減少することで、生活費や子どもの教育費にどのような影響があるのか考えてみる。

具体例

 例えば、ある飲食店オーナーのAさんが、年商5000万円の店舗を経営していたと仮定する。月々の売上は約400万円、経費(人件費、仕入れ費、家賃など)を差し引いた手取りが100万円だった場合。

 Aさんが廃業を決断し、月々の収入が0円になる。この状況において、家族の生活水準に大きな影響が出ることは必至だ。

  • 家賃:
     月々15万円の賃貸住宅に住んでいた場合、収入がゼロの状態では家賃の支払いが厳しくなる。

  • 教育費:
     小学生の子どもが2人いる場合、1人あたり月額5万円の教育費(学費、習い事など)を支払っていたとすると、月々の教育費だけで10万円が必要となる。

  • 生活費:
     食費や光熱費など、月々の生活費が30万円かかっていたと仮定する。

これらを踏まえたAさんの必要支出は、以下のとおりである。

  • 家賃:15万円

  • 教育費:10万円

  • 生活費:30万円

合計月55万円が必要だが、収入がゼロになった場合、貯金を切り崩す、又は借金をするしかない。仮に、Aさんに100万円の貯金があったとして、2か月後には貯金も尽きることから、これらを工面するために他の手段を講じる必要がある。

 このように、廃業後は生活水準に大きな変化がある。日々の不安や家計のやりくりは精神的に大きな負担をかけ、結果的に家族全体にストレスがかかるため、夫婦・親子関係に悪影響を及ぼす可能性が高い。


2. 精神的サポートと家族への影響

 事業の廃業後、家族やパートナーの精神的なサポートがどれだけ重要かは計り知れない。経済的負担や生活水準の変化は、精神面に大きな負荷をかけ、家族内での関係に亀裂を生じさせることも多い。

具体例

 Aさんの廃業後、妻のBさんは経済的な不安を抱えるようになった。月々の支出が多く、収入がなくなることで生活費をどう工面するか、将来に対する不安は膨らむ一方である。この不安が長期にわたれば、夫婦間のコミュニケーション不足が深刻化することもある。

 例えば、廃業から1か月後、家計が赤字にならないようにBさんが節約を始めたのに対し、Aさんは「仕事を探す」と繰り返すだけで具体的な行動に移さなかった場合、Bさんが精神的な限界を感じる日も遠くないだろう。
 Bさんからすると、Aさんに対し「あなたがしっかりしてくれないと、私たちはどうなるのか」と言いたくなる気持ちが高まり、夫婦間での不満が溜まることもあるだろう。

 また、子どもたちへの影響もある。廃業後、家庭の経済的余裕がなくなり、子どもたちの習い事を辞めさせなければならない場合、子どもたちが不安や不満を抱えることもある。子どもたちが将来の教育に関し、何らかの妥協を強いられることも考えられる。これが、親子間の関係に影響を与え、家族全体のモチベーションを下げることにも繋がる。


精神的サポートの重要性と回復方法

 廃業後の精神的なサポートは、家族全体にとって非常に大切なことだ。

具体例

 廃業後、自分自身を取り戻すために行動を起こし、自分のスキルを再評価して転職活動を始めたAさん。これに対し、Bさんが積極的にサポートすることで、Aさんは前を向くことができ、家族全体のムードも改善されるだろう。例えば、BさんがAさんの履歴書の作成を手伝う、転職エージェントに相談するなど、具体的な行動を共に進めることによりAさんは自信を取り戻し、精神的に安定することができる。

 また、外部のカウンセリングやサポートグループに参加し、同じような経験を持つ人たちと感情を共有し、新たな支援を得るのも有効だ。精神的なサポートを受けることで、再起に向け、強い意志を維持し続けることができる例も多い。


4. 廃業後の再起と新たなスタート

 廃業は終わりではなく、新たなスタートだ。社会的に成功を収めた起業家が廃業を経験した場合でも、結果的に再起を果たしている例は多い。失敗に学び、次に活かすためには再チャレンジの意識を持つことが重要だ。

  • 経験を生かす:
     廃業経験を通して得た知識・スキルは、その後の人生で大いに役立つ。特に、事業を運営する中で培ったマネジメント能力や問題解決能力は、別の分野で活用できる。

  • 新たな道を切り開く:
     廃業後、新しい事業を立ち上げるか、別の分野に転職する選択肢が考えられる。どちらを選んだとしても、廃業した事業から切り替えることで、後の人生を前向きに再スタートできる。

経験を生かす:廃業の経験を次にどう活かすか

 廃業の経験から得られる教訓やスキルは、再起を図るために非常に重要である。経営者としての経験は、マネジメント能力や問題解決能力など、今後のキャリアや人生に大いに役立つスキルだからだ。

具体例:マネジメント能力を活かす

 例えば、Aさんがカフェを廃業した場合。Aさんは、従業員の管理や発注業務、顧客対応など、さまざまなマネジメントスキルを磨いてきた。

 廃業後、Aさんがその経験を活かし、飲食業界の店舗マネージャーとして転職する道を選んだ。企業側がAさんの経営経験を高く評価し、新たな店舗の立ち上げにおけるリーダーシップを任せることになった。
 転職前には、経営の経験から得た予算管理やマーケティング戦略を生かし、転職先の企業に対し新たな提案を行うことで、企業にとって重要な資産となることができた。このように、廃業後の経験は他の業界やポジションでも活かすことが可能である。

新たな道を切り開く:転職や新しいビジネスの立ち上げ

 廃業後、再び起業を目指す場合、事業を運営していた経験は大きな強みになるが、同時に、再起のために新しいアイデアや異業種への挑戦が必要な場合もある。転職活動を通じ、新たな業界で経験を積むことも一つの手段だ。

具体例:転職や新たなビジネス

 例えば、Bさんが自動車修理の工場を経営しており、業績不振で廃業。その後、Bさんは自動車関連の営業職に転職し、業界の知識を生かして新たなスキルを身につけた。そして、転職先で得たネットワークを活かし、新しい修理工場を立ち上げることに成功した。最初はフリーランスのエンジニアとして働き始め、最終的に小規模な企業を立ち上げたのだ。
 このように、廃業後に別のキャリアを選ぶことも、経験を活かし新たな道を開くための有効な手段だ。


経営者から会社員に戻る際の壁と乗り越え方

廃業後、経営者から会社員に戻る決断をした場合、さまざまな壁に直面する。特に、自分で意思決定をしていた自由度の高い仕事のスタイルと、組織内での立場のギャップに悩むことが多い。

具体例:立ちはだかる壁

 例えば、Cさんが製造業の小規模な企業を経営していたが、競争に敗れ廃業した場合。Cさんが再就職活動をした際、最初に直面した壁は、企業文化の違いだった。自分で意思決定をしていたCさんにとって、会社のルールや上司の指示に従うことは非常にストレスだった。自分の意見がすぐには受け入れられず、反発する気持ちが強まることもあった。

乗り越え方

 Cさんはこのギャップを乗り越えるため、自分が会社に貢献できる部分を意識することにした。過去の経営経験を活かし、プロジェクト管理やチームワークの強化に積極的に関わり、自分の強みを企業に提供する方法を考えた。また、柔軟な思考と上司とのコミュニケーションを大切にし、少しずつ自分の意見を受け入れてもらうよう働きかけを行った。
 結果として、Cさんは自分の意見が反映される環境を作り、新たな職場での成長を実感するに至った。自分のペースで進んでいた経営者としての感覚を、会社員としての柔軟性と合わせることが成功へのカギとなったのだ。


再起を目指して経営者として再挑戦する際の注意点

 再度経営者として立ち上がる場合、廃業後の経験を活かし、新たなビジネスを立ち上げることは可能だが、いくつか注意すべきポイントがある。

具体例:再起のための注意点

 例えば、Dさんが廃業後、再度自分のビジネスを立ち上げる決断をした場合。Dさんは過去の成功体験に依存し、古いビジネスモデルや手法をそのまま再利用しようとした。その結果、時代の変化に対応できず、再び失敗してしまった。

注意点と乗り越え方

 再起を目指す際、過去の成功体験に縛られ、時代のニーズや市場の変化をよく理解しないまま走り出すケースがある。

 上記の事例において、Dさんはその後、新たな技術やマーケティング手法を取り入れ、過去の経験を基にしたビジネスモデルを柔軟に進化させることの重要性に気づいた。その結果、デジタルマーケティングやオンラインプラットフォームを活用し、再度新しいビジネスを軌道に乗せることに成功した。

経営者として再挑戦するなら、以下に注意:

  1. 市場の変化をしっかりと把握し、柔軟な対応ができるようにする。

  2. 過去の成功に依存せず、新しい視点を取り入れる。

  3. 小さな規模から始めることでリスクを軽減し、徐々に拡大する。


5. 廃業後の心のケアとサポート体制の重要性

 廃業後、一般的に精神的なダメージが大きく、心のケアを要する場合が非常に多い。自己肯定感を保つ方法や、メンタルヘルスに対する効果的なアプローチを学ぶことで、再起を図りやすくなる。

  • カウンセリングやサポートグループ:
     廃業後は、他の廃業者や起業家とつながり、共有体験を通じてサポートを受けることが有効だ。場合によっては、専門家のカウンセリングを受けることで、感情面での回復を助けることができる。

  • メンタルヘルスを意識する:
     体調管理や睡眠の改善、ストレス解消の方法を積極的に取り入れ、心身ともにリフレッシュすることが必要である。


終わりに

 廃業は決して終わりではなく、人生の一つの過程である。どんなに辛い経験も、そこから学び、新たなチャンスを見つけることができるということを忘れないでほしい。廃業後は金銭的、精神的、社会的な影響が伴うことが多いが、その後の人生にどう活かすかが大切だ。再起を目指し、新たなスタートを切ることで、あなたの経験が新たな成功へと繋がるかもしれない。


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ヲタク行政書士®榊原沙奈
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