白い朝
昨晩は嵐のような木々のざわめきと屋根にバラバラと落ちる音で目が覚めた。寒さが増したので、猫のように布団に潜り込んで眠る。
いつもよりも、遅い時間に目覚め、カーテンを開けると、一面が真っ白だった。空は明るい水色に晴れて、遠くの梢はすっかり白い点描のよう。
久しぶりに見た雪景の朝。ふと気づけば、あたふたと年末年始に頭をよぎってきたことばたちが、地面に着地せず、チラチラと舞う粉雪のように空中に浮かんでは消えていた。
当たり前なのだ。
大地震や航空事故の惨状が続き、しばらく年の始まりを忘れていた。
心が揺れる始まりだったから。
少し遡って思い出すことから始めよう。大晦日は零時が回る頃に近くの舎利寺で鐘をつき、隣のお宮さんにお参りをして小さな紙コップに入った御神酒をいただいて新年を迎えた。輩たちとの楽しい集いの最中に災害が起こり、晴れた空が夕闇に沈む頃にはおめでたい気持ちが薄らいでいった。
翌日は奈良の法隆寺へと足が向いていた。広々とした青い空と伽藍の数々。百済観音を見つめていると、何事も慌てずにと、力む心をはずすような心地になる。
三月の個展での制作を、コツコツと始めることが、今年の始まり。
テーマの「鏡」を通して静かで細やかな発見があるように。
©︎松井智惠 2024年1月9日