オオカミ村其の二十六
「ポんちゃん胡蝶に会う」
川の流れを見つけたポンちゃんは、ようやく胡蝶の館につきました。北の国を出てどれくらい経ったことでしょう。
「暖かい海が欲しいと、北の海の住人が言ってるよ、胡蝶さん」と、ポンちゃんは言いました。「ああ、いつものことさ、広い広い海でも冷たいからなあ。小さい南の黒海はそれに比べりゃアンチョビ、アジやイワシ、ニシンやチョウザメまで美味しい魚がいっぱいさ。なんといっても白海まで運河で繋がってるしな』と、胡蝶は言いました。
『えっ!そんなに魚が』と、ポンちゃんは、ニシンでお腹いっぱいになった気分になって、思わずゲップをしてしまいました。『おいおい、呑相変わらず呑気なポンちゃんだなあ。暖かい海は、黒龍さまのねぐらのあるところさ。』『えっ!黒龍さまってそんなにに近いところにいるの。こわいなあ』と、ポンちゃんはブルっと毛を逆立てました。「ポンちゃんは素直だな。龍がいると信じているカワウソなんて、ほとんどいないよ」胡蝶さんはカラッと笑いました。
「チョウザメに、今までどれだけの部族が海に群がっては消えていったか、教えてもらおうか。あいつらはシーラカンスと親友だったからな。仙女はせいぜい700年程度だからかないっこない」「僕たちはもっとわからないや。と、ポンちゃんは少し膨れっ面で言いました」。そうです、ポンちゃんたちの寿命はせいぜい15年。胡蝶とは全く違う時間を生きているのでした。「そうだな、北の海の人達は待てなくなっているんだろう。待つことは退屈かい。待っていれば何も得ることができないとは、人の世の時間でのこと。バシャバシャ暴れてばかりしていたら、イワシも他の魚もいつかどこかへいってしまうさ」。「そ、それはだめだよ、僕たちお腹が空いているんだ」と、ポンちゃんはベソをかいてしまいました。「ボジと一緒に魚を食べたいよう」
ふうと、胡蝶は空を見上げて「ボジたち兄弟姉妹のことは、お前は知っているのかい」とつぶやきました。
2022年3月5日 筆