オオカミ村其の二十二
「海からの使い」
胡蝶が出て行った後、おじいさんやおばあさんたちは、目を覚ましました。「あれま、よく寝てもうての、胡蝶さんが何を話すたか、さっぱりわかりんかったな」。と、みんな口々に言いました。
本当にそうだったのでしょうか。おじいさんやおばあさんたちは、夢の中でナルミたちの出生の秘密を聴いていたのです。北の国の人々は、夢の中にお話しを入れておく箱を持っていました。目覚めている時は、箱は閉じているのでナルミとボジの秘密はわからないままですが、寝ているときに蓋が開いて全部思い出すのです。瑠璃も胡蝶のふりかけた銀の粉で夢の中の箱に仕舞い込んでしまいました。
「夢のなかか」と、胡蝶は外に出て呟きました。「北の国の扉も、その箱の中にあるのかもしれないな」。お日さまに照らされて、キラキラ光る氷の塊に胡蝶は飛び乗りました。海の中から、一匹のタツノオトシゴが現れました。「おい、ショーリじゃないか。えらく遠いところまでやってきて、どうしたんだい」。「胡蝶さん、青龍さまからの伝言ですよ。南の国のオオカミたちが暴れているようで、観にいってくれと仰せつかりました」。「黒龍か赤龍に頼めば良いものの、私が行くひつようがあるのかい」と、胡蝶は少しめんどくさくなって言いました。北の国から南の国までは遠いのです。
「胡蝶さん、そうおっしゃらずに。龍は自分の持ち場以外のことはしないのはよくご存知なはず」と、ショーリは青い鱗でできた耳飾りを胡蝶に渡しました。「これをつけますと、水の中では青龍さまがお守りくださいますゆえ」。「ショーリ、北の国には何か秘密があることを、青龍に伝えておくれ」。胡蝶は耳飾りをつけて、氷の下の水脈を通って南へと向かいました。
2021年9月1日 追加