コジャレター「聴覚について」
私は大きな音がわりと苦手です。にもかかわらず制作中は、電動工具をブンブンうならせてもわりと平気です。でも、プランを考えたり、文章を書いたりするときに近くで大きな音をガンガンやられたら怒ります。勝手なもんです。
聞くということによって、私は自分の余裕を測れそうだなと思っています。余裕が充分あるときは、聞こえてくるものを聞く事ができます。聞き知ることができます。想像して楽しむこともできます。その反対に、余裕がなくなってくると聞くことができません。聞かなくなります。
見ることには確かめたり判断したりすることが付きまといますが、聞くことには、認めるかどうか、受け入れるかどうかという受容能力と、想像力の内容に働きかける要素が視覚より多くあるようです。
作品の種を見つけて発芽させるときは、自分の想像力に注意して聞かなければなりません。そんなときは、贅沢に、精一杯余裕を作ることが必要になってきます。
©松井智惠 1994 7月23日筆
ぴあ関西版 No.288 1994年8月23日号177P