半睡の午
物性は余白のような微笑の近似をとる。
ぬくもりの予感へと参列するほそい腕。
そのたしかな系の均衡が破られたとき、
春の中綿はとび散ってしまう。
透明な闇が塔に流れ込んでからというもの、
窄んだバケツに掬われた空間は
耐えがたく軽い。
灰をかき出して薪を焚べる。
雪は斑らに起きがけの窓を濡らし
列車は定刻を過ぎようとした。
鏡にひそむ原形をたずねるもの。
あるいはすべすべの丘に立ち
残月の行方をながめるものは
皆、不和を知らない。
ふたしかな季節、永遠がなだれこむ納屋。
睫毛の先にみずかげは仄めいている。
深部の根圏はわれわれを形容するように
まがいものの沃素で満ちてゆく。
かつて言葉だった澱が
太陽の光のもとでざわめきだすと、
現象のにじみ出る座標には亀裂が入り
海の剥製は静止する。
報いるのではなく、報せるように。
翼の折れた鳥類のかたくなな異化。
船は浅瀬を回遊し、波の一群はおごそかに自浄する。
森の融点が下がるほどに
みずみずしい果肉にめり込んでゆく拇。
燃えさしを妄りに積み上げる少年は
砕けたガラスの中によすがを見いだす。
泥と白亜の成層、情けのない木漏れ日は
戦場を研ぎ澄ますのだろうか。
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