死者の作法

ふわり
ただ遺る
美醜
痕跡から
聖者の心中
察しなさいと
供物を噛み
押し殺すことで
表面は澄み渡ってゆく
私の海が
大丈夫なうちに
大丈夫なうちに
概念になろうとした
そして
体温のない器から
欠落してしまったらしい
ほんものを拾った

花が
揺れたことを知ったら
とり返しがつかない
どうどう
どうどう
かわいい鼾だ 覚醒の
砕けちる朝の光
草は生うことをやめ
地平はのたうち
雨を待ちわびている

ふわりと
終わりまた
はじまるだけの
詩と
母の匂いを
葬り去った後の
すべすべな
感性
沈みかけの舟は
海が涸れるほど
真理に近づいたところだ

分かち合うことも
慰め合うことも
意味をなさないような
余白
ともしびは
夜のしじまに沿って
したためた
無言の手紙を
ふわりと
届けようとするが
ついには
なまなましい
森の原形を暴くための
空砲が鳴り響き
とびたった渡り鳥の
瞳の中で
ほんものが黙し 笑った

世界の一部をあたえた
失くしたら
触れるだろうか
還ったら
感じるだろうか

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