【ミニ情報:カイアズマ(交差配列法)】
今日は、モルモン書の中で現れるヘブライ文学の表現様式についてのミニ情報です。
古代イスラエルの影響を受ける古代アメリカの預言者たちは、その記録を残すにあたって、ただ単に記録を記していただけではなく、ある部分は、ヘブライ詩などに見られる詩的表現や文学的な表現を用いて記したと思われます。ジョセフ・スミスが述べていますように、モルモン書は「…まさに金版…からの逐語訳である…」(History of the Church 1:71)ため、その英語による翻訳文には、古代アメリカの預言者たちによって記された記録の中で古代イスラエルの影響を受けていると思われる箇所が原形をとどめています。
元々、古代ギリシアやラテン作家の作品において「並行法」の研究は18世紀以前からありましたが、聖書学者が聖典におけるカイアズマ(交差配列法)を発見し始めたのは、主に18世紀の初頭です。
1741年には、英語文法研究の歴史上最も重要な文法家の一人に数えられる、牧師でありオックスフォード大学の教授であったロバート・ロウスが自らの大学の講義で初めて「並行法」について言及しました。その後、1753年ロウスはラテン語で『ヘブライ人の聖なる詩に関する講義』を出版し、アメリカ・ボストンのジャーナリストであり政治家であったジョセフ・T・バッキンガムが1815年に、また、マサチューセッツ州アンドーバーのクロッカー&ブリュースター社が1829年にその英語版を出版しています。また、1820年には、アイルランド聖公会のジョン・ジェッブ司教もカイアズマ(交差配列法)に関連した書籍を出版し、1824年と1825年には、英国国教会の司祭であり神学者のトーマス・ボーイズの出版物にもカイアズマ(交差配列法)について言及されています。
モルモン書におけるカイアズマ(交差配列法)については、ジョン・W・ウェルチの貢献が大ですが、彼は、1967年に、末日聖徒イエス・キリスト教会の宣教師として働いていた時に、ドイツのレーゲンスブルク地方にあるカトリック神学院の講義でこのテーマを知り、その後、モルモン書の中にカイアズマ(交差並列法)を発見しました。彼はブリガム・ヤング大学に戻り、学部生として『モルモン書におけるカイアズマ(交差配列法)』と題する論文を書き、1968年にBYU Studiesに投稿しました。この論文は1969年の春に受理され、1969年の秋に出版されました。
日本語『モルモン経』の翻訳には、最初、意訳で翻訳されていましたので、その形跡を見つけるのは容易ではありませんでしたが、1985年版の『モルモン書』では、逐語訳で翻訳が行われましたので、英語と同様にその形跡が随所に見受けられるようになりました。
以下、ヘブライ文学における並行法について少し述べておきます。
①並行法(parallelism)
ヘブライ詩は並行法を基本にしていますが、その様式は、第2行目が第1行目の思想を反復し対となる様式です。同義的並行法、反語的並行法、総合的並行法などがあります。
a.同義的並行法:第1行で言われたことが第2行で別の言葉で置き換えられ、その2行が対句をなす。(2ニーファイ 4:23, 28-30; モルモン 6:17参照)
b.反語的並行法:第1行の思想の逆の意味を第2行で繰り返すことによって第1行の思想を強調する。(2ニーファイ4:33参照)
c.総合的並行法:第2行が第1行を補足あるいは統一統合していく。(2ニーファイ2:25参照)
②交差配列法(chiasmus)
交差配列法は、並行法の基本形式を変形したもので、例えば、4行連句であれば第1行が第4行、第2行が第3行と平行になったものをいいます。これはギリシャ語のchi(これはXに相当する)からとったもので、並行する行がちょうどXの形になることからこの名で呼ばれています。代表的なものが、2ニーファイ3章、アルマ書36章です。章全体がカイアズマ(交差配列法)の様式になっています。
2ニーファイ3章におけるカイアズマ(交差配列法)
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