願い ~小さな叙事詩Ⅱ
「ずいぶんと風通しが良くなったね」
今年の暮れに北極圏からやって来る冬の使者は そう呟くだろう
交通の要所であるこの街には ずいぶんとたくさんの背高な建物が並んでいて
彼が連れて来る北風が街を通り抜けようとすると いつも邪魔をしていたのだ
ところがどうだ 今年の街は
中心部に林立していた建物で 昨年と変わらないものは一つもない
ほとんどの建物が その肌に大きな穴や崩れを持っている
石灰色の瓦礫でできた背の低い山に 姿を変えてしまったものも 少なくない
毎年 北風が木々の葉を揺らして立てていた ザアザアと言う音に
今年は 廃墟の隙間で鳴り響く ビヒョウヒヒョウと言う音が加わるだろう
新年に行われていたクリスマスの祝いは
旧年の内に行われることとなった
がっしりとした石壁と分厚いガラス窓に守られた温かな室内で
「願い事を一つに絞ることなどできないよ せめて三つはお願いしたいな」
と 目を輝かせていた子供たちは
避難先の地下道で 毛布にくるまって寒さをしのぎながら
たった一つの願い事を 毎日神に祈り続けるようになった
その願いをかなえるのは 誰だ
神か
彼方か
此方か
それとも 貴方か 私か
翼で冷気を切り裂きながら
今日も街の上空を 無人機が 飛ぶ
その腹には あちらの言葉でこう記されている
「Present from GOD」
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