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幸福なボッチャ王子(第4話)

【ずっとあなたと一緒にいます】

翌日ツバメが港へ飛んでいくと、船員たちが大きな掛け声をかけながら、荷物の箱をロープで引き上げていた。

ツバメも
「私はエジプトへ行く!」
と叫んだが、それを気に留める者はいなかった。

夜になると、ツバメは王子のもとへ戻り、
「さようならを言いに来ました」
と告げた。

ところが王子はもうひと晩だけ自分と一緒にいてほしいと頼んだ。

ツバメはもうすぐ冬になってしまうと答えたが、王子は町の体育館にいるボッチャ大会主催者の男性の話をした。

男性は今年もボッチャ大会を開催したいのだが、資金繰りがうまく行かず
「今年の開催は断念しようか…」
と悩んでいるところだった。

でも大会を中止すれば、楽しみにしていた選手たちはがっかりしてしまうだろう。
彼は頭を抱えていた。

ボッチャ王子はツバメに、自分の手に持っているルビーでできた赤のボッチャ球を彼に与えてほしいと頼んだ。

ルビーでできたボッチャ球は、とてつもなく高価な品で、簡単に人手に渡せるような代物ではない。
ツバメは躊躇したが、ボッチャ王子はこう言った。

「言うとおりにしてほしい。
このボッチャ球は、全体がルビーでできていて非常に高価なものなんだ。

でもルビーでできた赤ボールは、ボッチャの大会では使うことができないんだよ。
重さも硬さも素材も規定違反だからね、試合前のボール検査で取り上げられてしまうんだ。

どんなに高価で美しいボールでも、ボールとして使うことができなければ意味がない。

でも、あの大会主催者がこれを宝石屋に売れば、そのお金で彼は無事に大会を開催できるんだ」

王子のボッチャへの深い愛に感動したツバメは、王子の手に持たされていたルビー製のボッチャ球を小さな足で必死につかむと、重さにふらつきながら飛び立った。

そして、ヨロヨロしながら町の体育館に降りると、力尽きたようにボールをボスッ!と厚いヨガマットの上に置いた。

大会主催者の男性は、仕事を終えて帰宅しようとしていた。

彼は突然目の前のマットに落ちてきた赤ボールと、その近くでヨロヨロしているツバメに、最初は不審な顔をした。

しかしボールがルビーでできていることに気付くと
「これは君が持ってきてくれたの?これを僕にくれるの?
ありがとう!これで大会が開催できるよ!!」
と大喜びし、ツバメに水を持ってきて飲ませた。

ルビーでできたボッチャ球を宝石屋へ売ったお金で、ボッチャ大会は無事に開催できることとなった。

利き手がすっからかんになったボッチャ王子のもとへ戻ると、ツバメは足のストレッチをしながら
「王子、ずっとあなたと一緒にいます」
と言った。

王子はツバメにエジプトへ行くよう促したが、ツバメは王子の足元で眠った。

(※続きます)

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