オッさんのパラダイス【船橋グランドサウナ】(2/2)
5月4日(水)の天気は気持ちがいいほどの晴天だった。この日、僕は誘いを受けて千葉市蘇我スポーツ公園で行われる音楽フェスイベント「JAPAN JAM 2022」に参加予定だったのだが、僕に声をかけてくれた方が身内に不幸があった関係で、夕方から現地で合流することになったのである。
一人で先に会場に入っても雰囲気を楽しめない気がした僕は、それまでの時間を有意義に使うべく、途中の船橋駅で降りて、ある場所へと向かったのだった。
「ここか〜! 来てみたかったんだよな」
そう、今回訪れたのは「船橋グランドサウナ&カプセルホテル」、通称「船グラ」である。船グラは、僕が細々と更新しているYouTubeチャンネル『ボッチトーキョー』のヘビーリスナーKさんが愛している施設で、以前から気になっていたのだ。
さっそく僕は館内に入り、階段を上って下駄箱に靴を預けてから、180分コースの料金1210円を先払いし、ロッカーキーを受け取った。
ロッカースペースはフロントのすぐ裏手にあり、そこの棚には館内着やタオルが積まれていた。僕は指定されたロッカーに荷物を預けて準備を済ませると、高まる気持ちを抑えつつ、いよいよ浴場へと足を踏み入れた。
「ほぉ、噂に聞いていた通り渋いな〜」
浴場は想像していたよりもコンパクトな設計で、お風呂と不感温風呂、そして水風呂を確認できた。なにより雰囲気がとにかく渋い。全体的に年季が入っていて、若者向けの施設というよりも、どちらかというと40〜50代もしくはそれ以上の世代の方々が多く利用しそうである。実際、この日も僕が最年少なのではないかと思われるほど、周りのお客さんたちの年齢層は高かった。
僕は身を清め、お風呂で程よく体を温めてから、サウナ室へと向かった。ドア付近にはサウナマットが積まれていたので、そこから1枚を手に取り、ゆっくりと扉を開けた。
「なるほど、これは落ち着く」
やや明るい照明のサウナ室の中で、15人前後が座れるほどのキャパがある2段構造のベンチには、数人の先客がテレビを眺めながら蒸されていた。温度計は92℃を指していて、湿度は比較的高く、そのため体感温度もなかなかだ。
僕は奥の上段に腰をかけ、周りのお客さんたちと同様、静かにテレビを眺めながら蒸され始めた。それから数分も経つと、全身からは大量の汗が流れ出し、徐々に心拍数が上昇しった。そして限界を迎えた時、僕は立ち上がってサウナ室を出ると、汗をすすぎ落としてから水風呂に肩まで浸かった。
ーーおお……気持ち良すぎる。
体感で17℃前後の、個人的には理想の水温。そこで30秒ほど深呼吸をしながら身体を鎮めると、それから隣の不感温風呂に移動した。
ーーこれはすごい。一生いられる。
「ドゴールR湯」と名付けられた36℃前後の人工温泉は、まるで空中浮遊するような極上の心地良さだ。先ほどまでのサウナと水風呂で高められた緊張感が、いっきにほぐされていく。おそらく先ほどまでサウナ室にいたであろう、僕の隣で不感温風呂に浸かっているお客さんの表情も幸せそうだ。僕もあまりの気持ちよさに全身が脱力し、気付いた時には瞼を閉じて五感を研ぎ澄ましていた。僕は、「今この瞬間」を本能的に受け入れようとしていたのだ。
脳を健康な状態に保つためには、ある程度の新しい刺激も大切だ。ここにいる ”オッさん” たちは、みんな生き生きとしていたように、僕は思う。
(written by ナオト:@bocci_naoto)