自己効力感で、健康になろう
自己効力感が高い人が健康だってこと
最近仕事で、「self-efficacy 自己効力感」についての文献を読む機会が増えました。
「自己効力感」は1977年にアルバート・バンデューラによって提唱された概念で、「ある状況において必要な行動をうまく遂行できる、と自分の可能性を認知していること」です。
つまり、どゆこと?
よく対比される「自己肯定感」が、「何ができてもできなくても、ありのままの自分を受け入れる力」を指すのに対して、「自己効力感」は「私には、目標達成のために必要な能力がある」「自分はきっとこれを成し遂げることができる」と信じる力です。
自己効力感は、学習や仕事における目標達成の文脈でよく紹介されているので、コーチングや心理学の領域でよくテーマになりますが、実は医療や健康の分野においても大事なコンセプトです。
というのも、病気の予防のための食事制限、運動、禁煙などの行動変容や、治療のための服薬や運動などを、ちゃんとできる人とできない人の間には、「自己効力感の差」があることが分かっているからです。
ちょうど今、私が分析を手伝っているデータにも、途上国のコミュニティベースのHIV/AIDS治療配布プログラムに参加した感染者の方々を対象に、自己効力感についての聞き取り調査データが含まれています。
「毎日決められたとおりに薬をちゃんと飲めると思う?」
「自分の健康は自分で管理できると思う?」
「自分でやろうと決めたことは、だいたいできると思う?」など、
さまざまな角度から質問をして自己効力感を測定し、実際の健康状態や治療の継続状況などとの相関を調べています。
ダイエットの決め手も、自己効力感
日本をはじめとする先進国では、すでに生活習慣病などに関連して自己効力感の重要性が知られています。
例えば糖尿病の患者さんは、食事制限や運動、処方された通りの服薬や注射などをきちんと続けていくことが必要で、長期的に日々の行動やライフスタイル全般を変えていかなければなりません。
「うまく続けられる人と続けられない人の違いは何か?」
「続けられない人には、どのような介入が効果的か?」
といった研究が数多く行われ、「自己効力感」が注目されるようになり、今では認知行動理論に基づいて自己効力感を上げるための患者教育プログラムが導入されたりしています。
ちなみにコーチングでも、よく「ダイエットしたい!」というテーマなどが出てきます。やはり同じ理由で自己効力感の高さはダイエット成功の鍵を握っているのです。
やみくもに食事やカロリー制限などを決める前に、まずは自己効力感を高めることが大事なようです。自己効力感を効果的に上げる方法については、別の記事にまとめている最中ですので、今少しお待ち下さい。。
でも自己効力感だけでは足りない?
さて、自己効力感が低い人に自己効力感を高めるプログラムを行うことは、確かに一定の効果はあります。それによって、治療の継続といった効果も出やすくなるでしょう。
ですが、いろいろと読んでいる内に、「どうもそれだけでは足りないのでは・・」と思えてくるのです。
足りないというより、「もっと効果をあげるためには、自己効力感にプラスして何かもっと必要な要素が有るのでは・・」と思ったのです。
自己効力感を上げるためには、「自分には無理」と思う人を、「自分はできる」と思うように変化させていく必要があるわけですね。
そのためには、そもそも「私は将来、変化できる」「自分はこれから成長できる」という、変化や成長についてポジティブなマインドセット、つまり「成長マインドセット Growth mindset」があると、この変化も起きやすい訳です。
成長マインドセットは、「人は何歳になっても成長できる、自分の望む方向に変化できる」というマインドセット、信念です。シンガポールでは教育省が数年前にこの概念を学校教育における重要な教育指針として打ち出して、流行語のようになっていました。
この「成長マインドセット」 x 「自己効力感」をうまく養えば、最強なのでは、と思って調べてみると、確かにこの両方に同時にアプローチするプログラムについての研究が、ちらほら見つかりました。
ということで、次回はこの成長マインドセットについても、もう少し書きたいと思います。
終わりに・・ここまで書きながらぼんやり思ったこと
かつて私がアフリカに住んでいた頃、まだART治療薬が開発されていなかったのでHIVは不治の病でした。人々は毎週末のように、親戚や知り合いのお葬式をはしごして歩くような日々で、本当に身近なところでたくさんの死者が出ていました。
私がザンビアで働いていた組織でも、現地職員の家族や親類が亡くなることが多く、お葬式の費用や棺桶代などを援助してほしい、とちょくちょく頼まれてはサポートすることが頻繁にありました。
それが、今は途上国でも「ART治療薬を飲みはじめて20年、元気に働いてます」という感染者も珍しくなくなってきており、こういうのを「隔世の感」っていうのだな、医学の進歩って本当に素晴らしいな、などと心から感動しています。
マラリアのワクチン開発などもそうですが、本当にできるかどうか分からなかったようなことに地道に取り組み、自分を信じて偉業をやり遂げた人たちの自己効力感に拍手を送りたいです。
もちろん、それでもまだHIVの治療薬がリーチできていない人口集団も世界中のあちこちにいます。それは社会経済文化的に、または地理的にも厳しい状況に置かれている人たちなどで、LGBTQ (IA+)なども社会的弱者として含まれています。
さて、私はコーチングを学び始めた頃、コーチングと公衆衛生学の研究領域とをかけ合わせて「公衆衛生」 x 「コーチング」のテーマも発信できたら良いな、などと思っておりました。あまり専門的な内容ではつまらないので、身近な健康の話題とひっかけて、少しずつ書いていきたいと思います。
北米では「ヘルスコーチング」はすでにひとつのメジャーなコーチング領域になっています。そんな話題も勉強しながら、発信していこうと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
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