人間が持つ先入観の壁の壊し方
人が持つ先入観を学ぶ。
先入観を集めたお話をコンパクトに学べるのが本書Think right。
この著者のThinkシリーズは人気のようだが、この本だけ本屋で気になって買ってみた。理由としては興味のある人間の考えや行動の学びの総まとめ復習によいなと感じたからである。
バイアスと一言にまとめずに、法則とか名前として覚えることができるのがよい。今までのベストセラー系の学術系のまとめ本に当たるが、全ての話に根拠となる研究の参考文献が一応あるのが魅力。
52項目ほど用意されたそれぞれのお話にワナと名付けた事例を紹介。
サンクコストやアンカリングなどの定番のワナは知っておいたほうがいいのは当然として、人に説明しやすい本だと気が付いた。その中でも好きな話をここでは書き留めておく。
人は線形は想像できるが指数の動きは想像しづらい
一定量が増えていく仕組みというのは頭の中で想像しやすい。
仮に毎月一定金額貯金する。これはグラフにすると線形となりイメージも計算もしやすい。ところが、年率5%増えるといった投資の話になると指数関数的事象となり、イメージが湧きづらいし計算もパッとは出てこない。
この指数で増えるものについてはそもそも人間の頭のではイメージしづらいらしい。二倍ずつ増えるものであれば、2、4、8とどんどんその拡大が感覚的にわからなくなる。
投資の話をしたように、実際に計算しないとわからないものはイメージに頼らないことが大事なのだと気づかされる。
そのことについて「32 なぜ、50回折りたたんだ紙の厚さを瞬時に予想できないのか?」という章に具体的な事例が掲載されている。
最近だと感染症の広がりかたも線形でイメージしていると見誤る。指数で増える対象として捉えないと爆発的な増加のイメージができないのだろう。これも実際に計算するしかない。
これを本書は倍々ゲームのワナと定義している。関連する参考文献が巻末にいくつかの方向でまとまっているのでそうなんだーと納得しやすい。
何もしないほうがいい場合でも何かをしてしまうし、何もしないとダメであっても何もしない選択をする
本書の40の過剰行動のワナと41の不作為のワナは併せて読むとおもしろい。
過剰行動のワナは、状況がよくわからないときほど、つい早く判断をして即行動をするという手を取りがちだとのこと。慌てず落ち着いた対処が必要な場面というのは経験によって積み重ねられる。
事例ではキーパーのPKの話がおもしろく右・左だけでなく真ん中の何もしない選択肢というのが与えられている。それでも、右か左に動こうとするといったお話だ。
逆に不作為のワナのように、どちらの行動をとっても悪化する状況が見込めるなら何もしないほうを選択する心理というのも存在する。これは、行動を起こさないほうが罪が軽いと感じるため選びがちなんだそうだ。
このワナは逆にとしたが、こちらの状況のほうが状況の悪化を食い止めることができる選択肢が残されているにも関わらず何もしないという選択肢をとってしまうらしい。これも本書を読めば見えてくる。
このようにシチュエーションによるが、そのような人間の癖があることを知っていると、動くべきか動かざるべきかの判断軸の参考になるのではないだろうか。
人の癖を知って自分の癖を知りたい
このように紹介してきたようにワナとなる人の思考がいくつもあることに気づかされる。そもそも自分は何者かと考えると、男だ女だの前に人間である。そして自分である。
人間としての行動のあるあるを知っているだけでも、性別や性格に限らずやりがちなことだという認識を事前に持つことができる。そして自分の癖に気づくことができる。その発見の切り分けに本書は参考になるだろう。
人間の思考の罠に陥るのは仕方ないので、合理的な視点で回避したり気付けるような仕組みで対応したいし、今まさにその状況かもと本書で発見することが何よりも必要な視点だ。
最後に、本書で一番好きなワナが、予測の幻想のワナだ。人はどうしても予測をしたがる。当たろうが当たるまいが予測に頼る。そして予測というものはほとんど当たらない。つまり人の言う予測は当てにする必要がないのだ。
それでも人は予測を信じようとする。
こう言われて、と言われてもとなるのが人間の思考の癖。そうひっかかりを覚えた人は本書の実証実験の結果から生まれた積み重ねを参考にすると楽しい未来が予測が...いやできまいという気持ちを感じることができるだろう。