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遊佐未森とリマスター

CDが再発される際に「リマスター音源!」と謳われることがあります。
CDのリマスター(リマスタリング)とは、単純に言うと「過去のレコーディング技術で作られた音源を最新の技術でより良い音質にすること」というぐらいの意味でしょうか。
実際にはそう単純でもなく、リマスタリングによって音が悪くなるケースというのも散見されます。
背景にあるのはよく言われる音圧競争というやつで、一聴して関心を持ってもらえるように音圧を上げる処理がリマスタリングの段階で行われがちです。

結果として、ダイナミックレンジの狭い、時には音が割れている音源が最新リマスター音源として世の中に出ることになります。


さて、我らが遊佐未森も何度かリマスター音源を出しています。

  • 2001年 コンピレーション『still life』

  • 2006年 アルバム『瞳水晶』『ハルモニオデオン』『HOPE』リマスター盤

  • 2010年 ベストアルバム『Do-Re-Mimo ~the singles collection~』

  • 2013年 ベストアルバム『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』

  • 2021年 アルバム『空耳の丘』リマスター盤

このうち『still life』『Do-Re-Mimo』『VIOLETTA』が手元にあるので、初出音源と比べてどんな変化があるのか確認してみましょう。
以下の 6曲について、波形とスペクトラムを比較してみます。画像はクリックすると大きくなります。

  • 「瞳水晶」

  • 「地図をください」

  • 「0の丘∞の空」

  • 「Silent Bells」

  • 「野の花」

  • 「東京の空の下」


先に結論

先に結論を書いておくと、『Still Life』と『Do-Re-Mimo』は、ドンシャリ傾向で、低音は輪郭がなくボワボワブヨブヨ、高音も割れて聴きづらい。
『Violetta』は音圧を上げつつもバランスが崩れず聴きやすい。
もちろん、好みがありますのでリマスター音源が好きな方もいるかと思いますが、個人的には、現段階では初出音源が音質としては良いと思ってます。
いっそ、Steven Wilson にリミックス&リマスターしてもらえないだろうか?


「瞳水晶」

記念すべきデビューシングルです。
初出音源はダイナミックレンジに余裕がありますが、その分音量は控えめです。
『Do-Re-Mimo』版は全体に音量が上がっていますが、ところどころクリッピング(音割れ)が発生しています。赤い線が入っている箇所がクリッピングです。
『Violetta』版は音量は上がっていますが、クリッピングはありません。

『瞳水晶』(1988)
『Do-Re-Mimo』(2010)
『Violetta』(2013)

スペクトラムで見てもリマスターによって、初出音源よりも音量が大きくなっていることがわかります。
初出音源との差分を見ると『Do-Re-Mimo』版は高音域と低音域が強調されて、いわゆるドンシャリ傾向に補正されています。縦線は低音域、中音域、高音域、超高音域をざっくり区分する目安です。
『Violetta』版は低音域は上がっているものの、高音域は控えめです。

「瞳水晶」スペクトラム比較

「地図をください」

こちらも「瞳水晶」と同じで初出音源はダイナミックレンジに余裕がありますが、『Do-Re-Mimo』版は音圧高めでクリッピングが発生しています。
『Violetta』版は音圧は高いもののクリッピングはありません。

『空耳の丘』(1988)
『Do-Re-Mimo』(2010)
『Violetta』(2013)

スペクトラムで見ると『Violetta』版は高音域が控えめになっています。


「0の丘∞の空」

比較的ロック色が濃い楽曲ということもあり初出音源から音圧高めですが、まだまだダイナミックレンジには余裕があります。『Do-Re-Mimo』版はクリッピングあり、『Violetta』版はクリッピング無し。

CDシングル音源(1989)
『Do-Re-Mimo』(2010)
『Violetta』(2013)

スペクトグラムは「地図をください」と同傾向で高音域が控えめになるように調整されています。


「Silent Bells」

こちらもこれまでの3曲と同傾向。『Do-Re-Mimo』版のクリッピングがなかなかすごいですね……

CDシングル音源(1989)
『Do-Re-Mimo』(2010)
『Violetta』(2013)

スペクトラムで見ると『Do-Re-Mimo』と『Violetta』でほぼ同じ傾向の補正がされているようです。


「野の花」

穏やかな名曲ですが、初出音源の段階でアウトロ近くに不自然に音量が大きくなる部分があり、ここはいずれの音源でもクリッピングしてしまっています。特に『Still Life
』版はなかなかにドイヒーな状況ですね。

『Hope』収録版(1990)
『Still Life』(2001)
『Do-Re-Mimo』(2010)

スペクトラムで見ると『Still Life』は中低音を若干持ち上げて、『Do-Re-Mimo』はドンシャリ傾向でしょうか。


「東京の空の下」

こちらは『Still Life』『Do-Re-Mimo』ともにベースの音が暴れて酷いことになっています……なんでこんなことに。

CDシングル音源(1992)
『Still Life』(2001)
『Do-Re-Mimo』(2013)

スペクトラムで見てもこれと言った特徴はなく、ただ音圧を上げただけっぽく見えます。


以上です。

2006年の『瞳水晶』『ハルモニオデオン』『HOPE』リマスター盤は聴いていないのでなんとも言えませんが、時代背景的に『Still Life』『Do-Re-Mimo』と同傾向だろうと想像します。

2021年の『空耳の丘』リマスター盤はどうなんでしょうね。気になるので入手したら追記するかもです。

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