
濱田マリ『フツーの人』の毒
濱田マリのソニー時代のソロ作品がサブスク解禁となりました。特に最初のソロアルバム『フツーの人』が注目です。
「え? 俳優の濱田マリって歌手だったの?」という方はこちらのインタビューをお読みいただくとよいかと。
さて、『フツーの人』に関してよく注目されるのは参加メンバーの豪華さです。
かの香織、菊地成孔、奥田民生、ヒックスヴィル、東京スカパラダイスオーケストラ、森岡賢、ECD、ゴスペラーズなどなど。
確かに豪華ですね。
しかし、このアルバムにはある毒が仕込まれています。すなわち関西インディーズという毒です。
まずはこのアルバムが生まれた背景を確認しておきましょう。
濱田マリは1992年にモダンチョキチョキズ(以下モダチョキ)のメインボーカルとしてデビューします。
1993年のアルバム『ボンゲンガンバンガラビンゲンの伝説』がオリコン最高11位と健闘、同年のシングル「自転車に乗って、」がTVドラマとのタイアップでヒットします。
しかし、1995年1月の阪神淡路大震災で「さよならくまちゃん」ツアーが中止。関西出身のバンドなので実家が被災したメンバーもおり、モダチョキは実質活動停止に。
その年の11月にリリースされたのが本作である。
モダチョキ在籍中のソロ活動、ということになっているがモダチョキ本体が動けない中で、じゃあメインボーカルの濱田マリのソロを作ろう、となったのは想像に難くない。
前述のように豪華な作家陣、演奏メンバーなのだが、今回注目したいのは「夜明けの背中」と「天国を仰ぐ島」である。
「夜明けの背中」
この曲は水銀ヒステリアのカバー曲である。
水銀ヒステリアは当時の関西インディーズシーンで活躍したバンド。濱田マリがモダチョキの前に所属していたバンド砂場や吉村智樹のバンド吉村うみぼうず、ハセベノウコのバンドポンポンダリアなどとともにスタジオ白旗を拠点に活動していたらしい。
「天国を仰ぐ島」
「天国を仰ぐ島」はバブーシュカ・バーバ・ヤーガというユニットの作品らしい。作曲は西村睦美(水銀ヒステリア)、作詞はBikke(ラブジョイ、アーント・サリー)となっている。
こちらも関西インディーズ人脈の作品ということになる。
なお、これはカバーでなく『フツーの人』が初出で、後にラブジョイのアルバム『妙』にも収録される。
この2曲が収録された経緯は皆目分からないが、背景を考えると濱田マリ本人の意思を通せる状況だったんではないかなぁと想像します。
メジャーシーンに飛び出しても、こういう地元の仲間との縁を大切にするのがとってもエモいですね。
それと別に「透き夜」も注目すべき曲ですね。モダチョキでの正拳突きのような歌い方とは全く異なるウィスパーボイスです。森岡賢の作曲ということもあり、ちょっと遊佐未森を思い浮かべてしまう部分もあります。
それから、濱田マリのソロ仕事としては「パジャマトリッパー」もサブスクで聴けます。これは名曲です。
そしてソニーさん、モダチョキのアルバムも塩漬けにしておくぐらいならサブスク解禁して!
でもね、実は最新の濱田マリが一番カッコいいんですよ!
「海の住人」も関西インディーズのポンポンダリアの曲です。
「ドロンゲーム」も聴いて!
以上です。