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週間レポート#3「映画『ラストマイル』の感想」


8月23日公開の「ラストマイル」を観に行く機会があった。
邦画を食わず嫌いする私にとって貴重な機会である。
考えさせられる内容であったため、今回のテーマとした。以下ネタバレ注意。普通に犯人とか言っちゃうかもしれない。

消費者志向社会・現経済システムの闇

映画の冒頭は消費者がオンライン小売業のサイトを閲覧するところ(その画面)から始まる。
そして映画の最後は消費者にスポットがあたり「what do you want?」という複数のAI音声で締めくくられる。
そして作中何度も登場した「customer centric(全てはお客様のため)」というワード。

この映画を通して製作者が表現したテーマは消費者志向社会と現経済システムの闇であると感じた。


今はポチれば欲しいものが手に入る。世界中の物質が四六時中流れている。
そして経済を動かすのは生産~消費のサイクルである。グローバル化が進み我々を取り囲む経済の規模は指数関数的に大きくなった。ここまで大きくなった経済を維持するには、人々は消費を続けるしかない。

おかげで生活は物質的に豊かになった。
しかしこの映画のテーマはその豊かさの裏である。

我々は本当に幸せなんだろうか。

手に入る一つ一つの”もの”の背景には、立場様々な人が存在する。
そしてそのバックには多数の企業の生存をかけた競走がある。根底にあるのは生産~消費者のサイクルだ。
サイクルに綻びが生じれば、そのサイクルに参加する者達に大きな不利益が被る。映画では医療が止まりかけたりした。
そしてこのサイクルはグローバル化に伴い複雑化していっている。さらに我々は生きていくために強制的にこのサイクルに身を置く必要がある。
経済を回すためにこのサイクルを止めてはならない。

作中、[山崎タスク]の事件があったにも関わらず、[23m/s→0 ]の願いも虚しく(ストライキで止まったと言えば止まったけど)、
ベルトコンベアーは動き続けた。
山崎の事件もマクロに見れば、このサイクルの1犠牲者に過ぎない。

このサイクルの影響を極力受けずに済む方法は欲を抑えることである。
[梨本]は前職ブラック企業を煮詰めたようなところで働いておりカウンセリングを受けていた。転職し[デリファス]で働くも、若いのに欲など無く、生活保守主義になっていた。物語の終盤、センター長に就任するも顔に迷いが生じていた。出世を素直に喜べない。なぜなら出世をすれば[山崎タスク]や[舟渡エレナ]のようにサイクルの犠牲者になるからである。

このサイクルは同時に無責任でもある。
作中の山崎の恋人の「私が罪を犯したなら私が償うが、そうじゃないなら世界は罪を償うのか?」
という発言の答えはNOである

豊かさの裏にはこのような闇がある。

そしてこの映画の登場人物は紛れもなくサイクルの犠牲者であった。常に何かや誰かの板挟みとなっており、絶対的な悪役はいなかった。
[五十嵐]も一見悪役のように描かれていたが(救急車をすぐに呼ばなかったことと、責任を山崎の恋人に押付けた点は悪いが)、見方を変えれば五十嵐もサイクルの犠牲者の1人である。満島に責任を擦り付け本社に報告するシーンもあったが、これまで上り詰めたポジションの退任がかかっているのだ。一概に全て悪いとは言い難い。
また終盤、羊急便が営業を再開できるようになり「妻に電話しなきゃ」という発言があった。登場人物それぞれに家庭など守るべきものがあり、今働いているところに執着するしかないのである。

右脳的感想

〇冒頭のカメラワーク([佐野親子]が乗る車を、車で追いかけて撮影されたシーン)でめちゃくちゃ酔ってしばらく気持ち悪かった、、、あと冒頭全体的にシュンッシュンッっていう動きが多くてそれもあって気持ち悪くなった、、、

〇満島ひかり演じる[エレナ]の情緒が少しおかしかった。それで後にエレナが精神疾患を患っていたことが判明。そして5年前の回想シーンでは落ち着いた雰囲気だった。演技すごって思った。
あと冒頭の「飛び降り防止にネットがいる」という発言は色々と伏線だったんだなと思った。

〇[佐野親子]が個人的に1番好きだった。
まず冒頭の
「この歳になっても親父に蹴られるとは」
「この歳になっても息子を蹴らなきゃならないなんてな」
というメタじみた発言。

佐野父︰「やっちゃんは〜」「やっちゃんは〜」
[やっちゃん]は1件配達で150円の仕事で月に50万円稼ぐトップドライバーだったらしい。それでことある度に父は息子にやっちゃんの話をする。
しかし息子︰「やっちゃんやっちゃんって、、、やっちゃんは体壊して死んだじゃないか、、、月に50万稼げた頃は良かったかもしれないけど、、、」
父︰「、、、」

というやり取りがあった上で、作中配達物が爆発して、
父︰「爆発しないって言ったよな!配達員の命をなんだと思ってるんだ!!」
と羊急便の人を怒鳴りつけるも
父︰「でも無事でよかったよ、、、」
と言って息子と一緒に羊急便の人も抱きしめた。このシーンに感動した。
佐野父はベテランであり、羊急便が今回デリファスとの板挟みであることを知らない訳では無い。しかし目の前で配達物が爆発し息子が巻き込まれ、悪者不在の怒りが込み上げてくる。幸い大事には至らなかったし何より息子は無事だった。
この一連の感情の変化と、それを表現する演技力に惹き付けられた。うるっときた。

終盤の「俺はただ、ずっと健康に働いてて欲しいんだ」的な発言もほんわかした。

〇今回の映画でマジの悪役は女作って出ていった母子家庭の少女のお父さんだと感じた。
「離婚は親の勝手でしょ。これ以上子供に迷惑かけないで。」
と言われるお母さんもまた被害者ではあるので可哀想ではあったが、慰謝料とか相手の女からとらないんだと驚いた。でもそれってお母さんのこだわりであり、お母さんも被害者であるのもわかるけど、子供が1番被害者なんだから請求するべきなんじゃないかなと思った。

〇[customer centric]がマジックワードであるというニュアンスがいまいち理解できなかったから、もう1回その辺見直したい。


という感じであった。満島ひかり可愛かった。



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