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【なんでもやりたい屋】#002

日付:2020/12/12(土)晴曇
依頼者:永畑智大 様
場所:東京都江東区
内容:作品設置・搬入作業

「急なのだけど明後日、何でも屋で仕事頼めるかな?」そんなメッセージが12月10日の19:11に突然きた。 永畑さんは、僕も使用している共同アトリエ「国立奥多摩美術館」の副館長として親しみのある方で、ファミリーレストランというペンネームで彫刻漫画家として活躍している方だ。

当日は、9:00に東青梅駅近くにある永畑宅に集合→カインズホームで資材の購入→八王子ICから東雲で〇〇展の作品設置→駒込のギャラリーで開催中のグループ展で永畑さんが昨日作品搬入した際に出た荷物の撤去→青梅に帰宅という予定。

8:30、近くにある東青梅にある僕のアトリエでインパクトや腰袋の工具を積み込み、車にルーフキャリアを付けてから永畑宅に向かう。途中携帯でSNSを見ようとしたところ電波がない。昨日iphone7から12に替えてSIM カードを入れ替えたのだが、不具合が起きているらしい。家ではWiFi下で使用していたので不具合に気が付かなかった。セブンイレブンに寄ってWiFiを拾って調べる。【iphone 12_ワイモバイル_SIM_使えない】うーん、 よくわからない。集合時間も迫ってきたので永畑宅に向かう。永畑宅は、マンションや民家に囲まれた箱庭の様な古い一軒家で、なかなか趣がある。

9:00ぴったりに到着すると家の外で待っていてくれた永畑さんと軽く挨拶。細かな資材積み込みがあるので車を細い道を挟んで向かいにある砂利の駐車場に数分置かせてもらおうと、 永畑さんが地主さんに断りを入れに向かう。遠くインターホンから聞こえる地主からNGの声。それぞれにいろいろな事情とタイミングってあるなあと思いながら、仕方なく道路脇に止めササっと積み込み。車が来なくて助かった。
永畑宅を出発し、青梅ICのカインズへ。土曜の朝のカインズは現場系の人た ちが疎らに居るだけで空いている。資材館で2×4の6ftを6本、9mmのコンパ ネを6枚、L字アングル10本入を購入。車に積み込んで八王子ICに向けて国道16号線を進む。途中、過積載か何かでパトカーに停められているトラックを横目に進み中央道へ。ETCのゲート前で、永畑さんが「そういえば 昨日、駒込の搬入だったんだけど、二藤くん首にコルセット姿でかなり遅刻して来て、実は搬入来る時ETCが開かなくて後ろから突っ込まれてそのまま来たんだよね~」と小噺。ドキドキしながらETCをくぐる。中央道、首都高4号線と空いていてあっという間に東銀座ICを降りる。青い標識に「東雲」の文字。あれで、シノノメと読むのか。とDQNネームの様な東雲に向けて車を走らせる。

10:30頃、難なく現場付 近に到着。現地で「奥多摩美術研究所」の佐塚さん、「ワールドおさがりセンター」のジャモ(酒井)さんらと 落ち合い、12:00から現場に入る予定だった為、近くにあった都会なのに大規模無料駐車場完備のローソンで待 機することに。1時間以上時間があったので僕は早速、ローソンのWiFiを拾ってワイモバイルへ連絡。電波が無いが、なぜか電話は繋がりVPNの設定をしなければいけない事がわかる。VPN担当の人から電話口で設定を教えてもらう「えーとですね、先ずコンパスの様な四角いボタンですね~、英語でSafariと書いてあるところを押してください。押しましたら、右下にある四角が2つ重なった所を押していただきます...」といった感じで歯痒い時間ばかりが過ぎてゆく。そんな電話をしていると佐塚さんが現れた。前日まで福井で仕事があり静岡の実家経由でやって来た佐塚さんは10:00頃からこの駐車場にいたらしく、車内でPC仕事をしていた様だった。ジャモさんは電車を間違えてしまったらしく遅れるとの連絡。その間もワイモバイルから設定を教えてもらうが、時間がかかりそうなので一旦電話を切ることに。担当者は残念そうな声色。その後WiFiを拾って調べながら設定を進み、 何とか回線が繋がった。ワイモバイルの人すみません。

落ち合った佐塚さんは早々に資材を確認して永畑さんと設計図を見な がら段取りを考え始めている。今回、会場の都合で壁の手前にさらに壁を建てないと作品が収まらないということになり、2×4とコンパネで壁を設置するのだ。

11:45、会場へ到着し永畑さん担当者を探しに受付へ向かう。巨大なエレベーターに車ごと乗り、2階にある展示場へ車ごと入場。資材を積み下ろし、再度エレベーターに車ごと乗り屋上に駐車する。搬入を終え検温やコロナに関しての承諾書へサインをし終えた頃ジャモさんが登場。 いつも便所サンダル姿のジャモさん今日は綺麗な白いスニーカーを履いていた。今日のメンバーが全員揃った所で作業が開始する。今回の設置作業は、「奥多摩美術研究所」が請負っていることになっているらしく、業者感を出す必要があった為ジャモさんにサンダルのNGが出ていたらしい。 早速作業に取り掛かる。壁作りは佐塚さんの先導でサクサクと進む。佐塚さんは会話も早いが手際も良い。コピー用紙に資材の配置を描き、数字を並べてゆく姿は、正にドローイングといった面持ちで頭の中で組み上げら れた図像を組みながら皆に指示を出す。指示を出しながらも都度「これで良いかな?」「古屋くんならどうす る?」と皆から逐一技術を引き出しベストを見つけながら作業が進んでゆく。ジャモさんの燻銀の呟きを聞きな がら1時間もしない程で壁は組み上がりいよいよ作品を組み立てる。規定が平面作品という建前の中、サイズ内での最大限の彫刻といった面持ちで立体的にコマ割りされた正に漫画彫刻を構築する過程は驚くほど早かった。 パーツは大小様々に十数点あり一見してほどけないコードの様に見えるのだが、「ここの角とそこが合うから~」「ズズズーっって感じで」などと永畑さんの指示を仰ぎながら作業するとピタリと決まってゆくのが気持 ち良い。固定する為に打つスリムビスはラッカー塗装されたカラフルなビスで抜け目ない。
微調整は作家本人にしかわからないバランスと構成があり、特に永畑さんの調整は一見大雑把な様に「まーここはいいかな~」「それは切っちゃおう」「うーん」という様に進んだり、かと思うとかなり慎重に悩んだり、その一手一手に無駄がない。まさに碁石を動かす様に其々が渋く作用している。

15:15、作品が組み上がる。作品の内容はアックスという漫画誌 に連載中のレーズンラムちゃんシリーズの漫画の様になっていて、夢の中の様な話になっているのだが、とにかく彫刻としての力が溢れている。漫画を読む時のページをめくるスピードは、物語の面白さに比例して作画制作の苦労を嘲笑うかのように早いのが普通だが、永畑さんの漫画は物語の面白さに比例せず何度もページを行き交う魅力がある。そしてその度に小技を発見してしまう面白味がある。そんな漫画が立体的に大きな壁となっていたら、そこから動けなくなる。

「これ、全部ブロンズにしようよ!ロダンだよ。」と佐塚さん。ははー、本当にロダンの地獄の門だ。

15:50、全ての作業を終え、朝集合したローソンに向かう。コーヒーを飲んで談笑。佐塚さんとジャモさんは恵比寿で行われている袴田さんの展示に向かうらしい。 16:15、永畑さんと僕は、軽くなった車で永畑さんのグループ展会場の駒込倉庫に向かう。オレンジ色の運河と遠くに霞むレインボーブリッジ、12月の服装で歩く人々を横目にビルに貫か れた歌舞伎座を通り過ぎる。人が多いなーと、秋葉原を越える頃には真っ暗になっていた。

17:10、難なく駒込倉庫に到着。駒込は山手線で一番乗降者が少ないらしく、 そう言われれば静かな街だ。展示を見ていると「鯰」というグループも出展している。鯰は大学で同級だった藤村が所属しているグループで、今回の作品は川畔で小屋を燃やしながら肉なんか焼いて食っていた。永畑さんの作品は1階一番奥にあり、丁度ギャラリーツアー中だったのでストーリーを盗み聞きした。笑いが起きていた。1時間ほどゆっくりと展示を見た。ギャラリーも閉まるので脚立、コンテナ2個を搬出して帰路へ。

帰りは、首都高から中央道に抜ける山手トンネルで1時間の渋滞。美術のことや、過去の仕事の話、これから父になる心構え、きぬた歯科の看板が3連続で畳みかけてきたり、ジャモさんの手帳を開いてスケジュールを確認する姿は業者感出ていて良かった。など、思い出したようにぽつぽつと話しながら何処までも続く高速道路の街灯を潜ってゆく。調布を過ぎた頃には車もまばらで眠気を誘うが、連日の追い込みで疲労困憊であろう永畑さんは寝なかった。

20:20、永畑宅に到着。コンテナや工具、余った木材を積み下ろしする。長尺のサンギは、庭に運ぶ。この家には家と同じくらい広い庭がある。夏に永畑宅で奥多摩美術館メンバーで映画「秋刀魚の味」の音声を流しながらYouTubeで中継をしたのだが、その時にこの庭で行進をした。久しぶりに訪れた広い庭には、まるで舞台セットの様に大きなバラックが建っていた。これは、ミニアトリエらしく中には机と椅子があり、木材が少し置いてあった。「建てちゃったんだけど、ある日、 向こうの道を歩いてて隙間からこの壁が見えてギョッとしちゃってさ~、なんだこれ?!って、自分の家だったんだよね~」と永畑さん。
マンションと民家に囲まれた永畑宅は、隣接する共同体の箱庭であり、ギャ ラリースペースとなっていた。なんて贅沢なのだろう、マンションからは永畑さんの日々の制作風景を眺める事が出来る正に特等席なのだ。

記念すべき二人目の依頼者となっていただいた永畑智大さんに改めてお礼申し上げます。

2020.12.15 古屋崇久

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