研究を始めたら恋人が消滅したお話④
ステージに立ったはいいけれど、歌詞は飛び、音は外し、とても申し訳ないことになってしまった。
組んでくれたみんなごめん。
別れたというのに、私たちはしばらく同じ家に住み続けた。
気まずくて、友達の家に逃げることが増えた。
朝方に帰って、すぐに大学に行くようにした。
元・恋人はすごく寂しそうだった。
でも、振ったのは貴方だから。
帰省していた1週間、全く連絡くれなかったのも貴方だから。
私の最後の歩み寄りを無碍にしたのも貴方だから。
あれから随分時間が経った。
時間が解決してくれたことがたくさんあった。
冷静にあのときのことを振り返られるようになった。
振り返らないことも選べるようになった。
研究が進んで、やることが増えた。
没頭する時間ができて、考えずに済むようになった。
今になって思う。
お互い意固地になっていたんだと。
謝るタイミングも、譲歩するタイミングも、全部すれ違ってしまったんだと。
私たちはお互いから逃げたんだ。
逃げた結果、失ったんだ。
元・恋人は、別れてから3ヶ月後に家を出て行った。
家の契約も、どうせ彼はあと一年半で卒業なんだから、新しく契約するのはもったいなかっただろうと思う。
でも、売り言葉に買い言葉、「出てく」と言った手前引き返せなくなっていたのを私は知っている。
知ってたよ。伊達に1年半もずっと一緒にいたわけじゃないもん。
彼だって、私が本当は寂しがっていたこと、一緒にいたがっていたことを知っていたはず。
いやどうだろう、それは期待しすぎかもしれない。まぁいいけれど。
行かないでが言えなくて、貴方が大切なんだと伝えられなくて、日に日に減る彼の荷物をただ見ていた。
最初はゲーミングチェアとデスク、ベッド。
本棚。服。小物。
ねぇ、一緒に買った食器棚さ、ずっと使おうねって言ってたよね。
まだ同棲する前、貴方が家に住み始めたとき、服の収納場所が足りなくなったからハンガーラックを買ったんだよ。
この部屋に1人はあまりにも広いよ。あんまりだよ。
私は君が大切だったんだよ。
いまさらだね、ごめんね。
もうすっかり慣れたけど、広すぎる部屋がつらかった。
いまは、慣れてしまったことが少しだけ悲しい。
目が覚めたとき、ベッドの真ん中で寝てる自分に気付いて、苦しくなる朝もある。
広さに耐えられない夜が、たまに私を襲ってくる。
その度に、ベッドの端で、小さく、丸くなってやり過ごす。
どうせ起きたら大丈夫なんだから。
いつだか、あまりにも家にいない私に、君は泣きながら言ったよね。
「ただ暖かいところにいてほしい」
ねぇるい、あたしね、それ以上に愛されてると感じたことはないよ。
だからあたしも、貴方がよく眠りよく食べ、穏やかに過ごしていることを祈ってる。
嗚呼、やっと消化できた。
昇華かも?
やっと感情が追いついてきた。
別れたすぐあとは泣けなかったのに、こんなに時間が経ってからやっと泣けた。
9ヶ月越し!長すぎるね。
痛かったなぁ。
最近、よく元・恋人のことを思い出すんだ。
女々しいって思わないで。
いや女々しいんだけどさ。
元・恋人を思い出しながら考えるのは、
これ、少しでも大切に思っていたり特別に思っている相手にはしないだろうな。
ってことが、最近よく身に降りかかるなぁってこと。
大切にされてたときの感覚を忘れてしまってて、自分を無碍にされてることに気付いていなかった。
大切にされること、大袈裟にいうなら「愛される」ことを、正しい関係性で全力で教えてくれたのは間違いなく元・恋人だ。
別れてしまっても、私のことを初めて真っ直ぐに愛してくれた人(家族以外でね)はあの人だ。
だからたまに思い出す必要がある。
それは主に、私が自分を粗末にしないために。
女々しいって言わないでね。笑
消化した、やっと消化した。
重かった。
ちゃんと泣けた。
もう大丈夫な気がする。
こんな終わり方でいいのかなって思いながら、これ以上書くこともないなとも思う。
研究を始めたら恋人が消滅したお話