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先日、ある大手企業の経営幹部の方から「子会社のゼネラル・マネージャー(社長)になりました」と報告を受けました。「おめでとうございます」と言うと「それが大してめでたくもないのですよ」と真剣な顔で言われました。「子会社でいくつかのパワハラがあって調査をしてみるとたくさんあることが判明しました。これはもう組織文化を変えるしかないという話になったのです。私が行くのはそのためです」。18年も前にブランドのプロジェクトをご一緒させてもらい、いまでは経営幹部にまで上り詰めた方です。当時はプロジェクトリーダーだったのですが、当時から「何か厄介な問題が起こるとお声がかかる」「駆り出される」という経営陣の懐刀のような存在でした。今回もそのパターンです。そして「パワハラの原因はDE&Iの欠落です。特にI(インクルージョン)を浸透させなければならない。つまり心理的安全性を定着させるインナーブランディングです」。このような相談を受けました。

一般的に、パワハラは「販売志向が強く目標達成に大きな価値観を持つ会社」に多く見られるように思います。正直、「期せずして起きてしまう」というのが当事者たちの感想かと思います。ここには上司と部下の価値観、世代間ギャップもあります。先月、別の支援先企業でZ世代向けに営業研修を行いました。そして研修コンテンツの一つとして「価値観カード(バリューカード)」を使ったセッションを行いました。これは20種類の職業上の価値観が書かれたカードです。例えば「経済的安定性:職業が安定して、将来に不安のないところで働くこと」「能力の活用:自分の能力が生かせる仕事をすること」「愛他性:困っている人々を助けること」などです。各人に職業人として自分の価値観にあうものを選んでもらいます。このセッションの目的は「自分自身のパーソナル・ブランドのコアや働く動機を見つける」ことですが、もう一つは上司が部下を理解するためでもあります。セッションを通じてZ世代の受講生に顕著に出ていたのが「ライフ・スタイル:自分自身の考え方に従って生活すること」「人間的成長:自分の内面的な生活を豊かにすること」「社会的関係:友人と一緒にいること」でした。そして「経済的報酬: 高い収入を得ること」「達成:自分がよくやったことを示す成果を得ること」「昇進:昇進できること」などは総じて低かった。これでは目標達成志向の強い会社がパワハラと言われてしまうのも理解できます。しかし上司がこのようなことを知っていればパワハラにならないよう気を付けられるというものです。バリューカードのセッションもそのような目的を持ちながら行うわけです。

価値観の違いに気付くとコミュニケーションも楽しくなります。ひとはどうしたって自分の価値観に基づいて相手に話しかけてしまうものですから、相手にとっては苦痛になることも多い。例えば自分の喋りたいことを一方的に話すのもそうでしょう。聞いているほうは苦痛です。そうならないためにも相手の価値観を知ること、バリューカードを使わずとも日々のコミュニケーションで「察すること」はとても大事でしょう。更には自分の話は一旦置いておいて「相手の話を聴く」も重要でしょうね。聞き上手がパワハラで訴えられることは皆無ではないでしょうか。そして傾聴されると相手は「こちら(の価値観)を尊重してもらえた」と感じる。すると「聞いてくれた人のことを好きになる」わけです。パワハラに限らないかもしれませんが、コミュニケーションとはそういうものでしょうね。楽しいコミュニケーションからハラスメントは生まれないのです。