戦争とプロパガンダ
ウクライナ情勢は膠着状態でなかなか出口が見えません。今回の戦争はロシアの武力行使に対してウクライナが世界中を巻き込んで対抗しています。先日の国会でのゼレンスキー氏の演説もその一環でした。戦争にプロパガンダはつきものですが、今回の戦争はかつてないレベルで行われているように思います。その背景にソーシャルメディアがあることは言うまでもありません。プーチンもまたロシア国内でプロパガンダを大量・頻繁に流しているようです。結果、プーチンの国内支持率は70%を超えるという情報もあります。ただ、これも海外向けプロパガンダかもしれません。ロシアは戦争の正当性を謳うために国内向けのプロパガンダを優先しているのでしょう。その反動でしょうか、3月14日にロシアの国営テレビで女性社員がキャスターの背後で「NO WAR」を掲げた行為は印象的でした。
ソーシャルメディアのみならずAIの発達も今回の戦争プロパガンダで出てきました。3月16日に出回ったゼレンスキー氏がウクライナの国民や兵士に降伏を呼びかける偽動画。「ディープフェイク」と言われるものでAIが作り出した「本物のように見せかける動画」です。そしてその直後、本物のゼレンスキー氏が「偽の動画である」とSNSを通じて呼びかけました。
マーケティング・コミュニケーションの示唆にもなるので、僕はこの1ヵ月ほど「戦争とプロパガンダ」関連の本を何冊か読み漁りました。「戦争プロパガンダ10の法則/アンヌ・モレリ著・永田千奈訳(草思社文庫)」という本があります。この本は大変示唆に富んでいてお勧めです。第一次世界大戦から湾岸戦争までの歴史を振り返りながら、「繰り返されるプロパガンダ」について実に明快に述べられています。
本書では、戦争当事者が使うプロパガンダには10の法則があるというのですが、僕には「10のテンプレート」と言ったほうが明快だと思いました。いわく「われわれは戦争をしたくない」「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」「敵の指導者は悪魔のような人間だ」「われわれは領土や覇権のためでなく、偉大な使命のために戦う」「われわれも意図せざる犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」「われわれの大義は神聖なものである」「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」。以上が10のテンプレートです。まるで現在の戦争を克明に描写しているような内容ではないですか。この本のオリジナルは1928年にロンドンで出版された「戦時の噓/アーサー・ポンソンビー著」で、著者のアンヌ・モレリ氏はその内容をベースに歴史的な検証をしたわけです。1928年に出版されたというのも驚きですね。ポンソンビー卿もそれまでの戦争を観察して記したはずですから、この法則(テンプレート)は時代を超えて存在するものだと思います。