創造都市概念の展開と世界平和
今日は、丹波篠山市で行われた第7回ユネスコ創造都市(UCCN)国内ネットワーク会議と令和6年度創造都市ネットワーク日本(CCNJ)の国際ネットワーク部会に参加した。このふたつの会議が同時開催されるのは初めてのことだという。私は、CCNJの国際ネットワーク部会での意見交換のファシリテーションを担当することになった。
この2つの会議体については、かなり複雑な関係性を持っていて、改めて記事にしたいと思うが、ここではこの会議に顧問として参加された佐々木雅幸先生の総括について、簡単に紹介したい。
創造都市の歴史をたどるとまず行き着くのが、佐々木先生の『創造都市の経済学』である。この本が出版されたのが1997年であり、続く『創造都市への挑戦』は2001年のことであった。これは、ユネスコの創造都市ネットワークがスタートする2004年に先立つものであり、佐々木先生の開発された創造都市概念は、いわば世界の文化施策を動かすほどのパワフルな構想でもあった。
ここでいう創造とは、ジョン・ラスキンやウィリアム・モリスを源流とする生きる喜びの表現としての創造であり、消費社会のバブルのような「クリエイティブ」とは一線を画すものだ。その後、この創造都市概念は創造農村へと深化していくが、そこには生命的なエネルギーを伴った活動としてのゆるぎない創造概念が軸になっている。創造農村の代表的地域である丹波篠山市で、このUCCNとCCNJの会議が行われるというのは、創造を軸として都市と農村が連携する、ひとつの象徴的なできごとでもあった。
そのCCNJの意見交換では、都市間連携を図っていくときに、その成果をどのように示していけばよいのかという議論が起こった。これは典型的な文化経済学のテーマだ。もともとボーモルとボーエンの著作『舞台芸術』では、経済的には採算のあわない舞台芸術について、市場では評価されない外部性があることを指摘したところから、文化経済学は始まっている。この外部性とは具体的には、教育効果や文化的継承、地域活性化などの価値である。CCNJでも、都市間連携を教育的効果やシビックプライド、シティプロモーションなどの観点で成果を捉えるという議論が行われた。その議論を踏まえ、佐々木先生は次のように言う。
創造都市ネットワークのもとになった「欧州文化首都(European Capital of Culture)」の活動は実は、日本、中国、韓国の都市が文化交流する「東アジア文化都市」の着想のもとでもあった。この文化交流は、日中韓の関係がギクシャクした時期にも継続され、たとえば日中韓文化大臣会合は欠かさず行われている。政治的、経済的軋轢を乗り越えるのが文化交流である。都市間連携の最大の成果は、平和なのだ、と。
都市レベルでの議論の場合、どうしてもその予算執行は都市に対するメリットで測られることになる。しかし、私たち関係者は同時に、もっと広い視野を持って事業に取り組む必要がある。佐々木先生の総括に、参加者はみな大いに刺激を受けたことだろう。私自身も、近視眼的なファシリテーションに終始してしまったことに気付かされ、蒙を啓かれた思いだった。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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