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野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(6)

野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(5)の続きです


いいたいことを絞る

野上 いったんここで質問を受けましょうか。

小山 オンラインのほうから質問があります。「仮見出しイコール言いたいこと、という理解で合ってますか。」

野上 書く以上は全部言いたいことだと思うんですよね。やっぱりこれですね[図11]。大事なことを伝えるために、前提を言いましょう。

[図11][編集注:(3)から再掲]

野上 「あの誰々というタレントの会見さー」って言わないと、タレントの会見の話できないじゃないですか。いきなり「いやなんか、内容ちょっといまいち、僕には伝わらなかったんだけど」って言っても、いったいなんの話ですかって。

小山 そうですよね。

野上 なので、前提がすごく大事。前提のうえで、言いたいことなんですかっていうことなので、言いたいことだけでは駄目で、前提を言いながら、言いたいこともちゃんと大事なことに絞っていく。

小山 そうですね。だから、言いたいこと+その前提、文脈をちゃんと示したものが見出しである、と。

野上 それに加えて、言いたいこともシングル・イシューに絞ってください。

いいたいことは真っ先に

会場 日本人だからなのか、壁を取り払うってけっこう難しいなと思っています。恥ずかしさもあるし、慣れてないし、どこまで自分を出していいのか、アドバイスありましたらお願いします。

野上 非常によくわかりますし、実は、どの企業さん、ビジネスパーソン向けのセミナーでほぼ同じ質問が出ます。つまり、簡潔に伝えるとか、要点絞って言うっていうことにも共通する話なんですけど、あんまりにもやりすぎると失礼にあたるんじゃないかっていうことですよね。

謙虚さ、謙遜からですね。メールの件名も、本文もどれぐらいの長さがいいんですか、あんまり短いと失礼にあたりませんか、みたいな質問をいただきますが、「相手の時間を無駄に奪うってことのほうが失礼」ってとくに最近思ってます。

つまり謙遜して遠回しな伝え方になると、「結局言いたいことはなんなのですか?」と、読み手の時間を奪ってしまうことになる。メールで長々と、本当にやってほしいことを言わずに、季節の挨拶からいろいろ言ってることって、実はめちゃくちゃ相手に失礼なんです。
いま私も編集長の立場で日々いろんなスタッフ、外部のパートナーさんも含めて、いろんなコミュニケーションとってるんですけど、いちばんイライラするのは、自分の時間を大量に奪われること。それはワンオンワンしかり、メールしかり、ビジネスチャットしかりです。

コミュニケーションには、なにかしら要望があるわけですよね。意図した結果があるはずなんです。なかなか伝わらない長文が送られてきたり、三〇分のワンオンワンの最後にやっと言ってきて、次のミーティングに差し掛かったりすると、ちょっとそれは困る。

もちろん、謙遜さは持ち続けていただきたいんですけども、それはもうみなさん、絶対自然とできてますよ。いまの質問もすごく丁寧にしていただいてますよね。こうして、社会人で真面目にリスキリングされてる方はもう絶対できてるんですよ。

むしろ意識してほしいのは逆のベクトルで、自分が長々と喋ることとか謙遜しすぎることがどれだけ相手の時間を奪って、最終的にめちゃくちゃ失礼になってるかっていうことだと、僕は現時点で結論づけてます。

片岡 事務局をしております片岡と申します。事務局から会員さんにご案内するとき、けっこう細かい内容もあります。時間を奪わないように、短く簡潔に伝えたいのですが、伝えたい内容の多さもさることながら、丁寧な敬語を使うのでスクロールさせない長さには収まりません……。結果、ちゃんと伝わってないっていうことが、よくよくあります。

野上 ケースバイケースなんですが、絶対言っておかないといけない免責事項を、めちゃくちゃちっちゃい字で最後に書いてたらそれは問題だと思います。本当に注意していただきたいこととか、大事なことは、やはり前に持ってくるべき。だけど、社会通念上のルールで守っていただきたいこととか、ここよく見てくださいみたいなものは、添付資料であったり、これってそういう扱いですよっていう見せ方をしないと読まれないんじゃないかなと思います。

大事なことを先に持ってくること、件名からちゃんと前提と伝えたい内容を入れてますかっていうことのほうが大事で、言葉遣いは大きな話ではないかなと思います。

話題のAI、ChatGPTは「校・閲・心」で活用する

野上 ChatGPT、みなさん使ってますかね。いかがですか。どんな感じで使っていますか。

会場 マーケティングの部署にいるんですが、PEST分析をさせてみたり、契約の中身、法務的なことを質問してみたり、最近よく使っています。

野上 すばらしいです。どうやってその発想になったんですか。プロンプトはどこから仕入れるんですか。

会場 Twitter(現X)でつぶやいてる人がいるんで、それを拾ってます。

野上 私もChatGPTいろいろ試してます。よく言われてるのが「検索には適さない」。検索はGoogleが強いという話がありますね。
ChatGPTが強いのは、ひとつは、いま言ってくださったチェックです。人間の目ではやれない速さと確度でやってくれるので、文章術的なところでいうと、校閲とか校正が適しています。日本語のチェックと、ファクトチェックとやさしさチェック。これらを校閲心(こうえつしん)と名づけました[図30]。

[図30]

野上 「閲」は調べて確かめるっていうことです。このいわゆるチェックの機能って、ChatGPTでかなり有効です。これを人力でやるには(本に書いたんですけど)、みっつのやり方があります[図31]。

[図31]

野上 まず、寝かせる。それから、同僚にチェックしてもらう。Peerチェックです。それから、いじれる状態のWordじゃなくて、PDFとかプレビューの状態にする。一回出力しちゃうってことです。紙でもいいんですけど。これが校閲の大事なポイントなんですけど、このふたつめのPeerのチェックで、ChatGPTが使えます。

たとえば実際にプロンプトで使えるものとしては、「次の文章に差別的侮辱的で不適切な表現が含まれてないか確認し、適切な表現に修正してください」みたいなものですね。みなさんが、どこまでこういう文書を必要とされてるかわかんないですけど、必要に応じて適切に変えてもらったら、法律的なものでもけっこう引っかかってきます。

それから、先ほど*も出てきましたが、「ソートリーダーシップ」のように、人に説明したいけれど、自分はそれを知りすぎてしまっていて説明しきれない、自分では表現がむずかしいというときに、たとえば「小学三年生でもわかるようにソートリーダーシップについて教えてください」と放り込むと、かなりやさしく表現してくれます。用語のチェックもできますし、サポート的に使えます。

*編集注:野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(2)

サマライズ機能を使ってタイパを上げる

野上 僕の使い方をお伝えすると、音声入力のあとに誤字脱字を直してビジネス文章にする。これはもう破壊的な能力、勢いで文章作成を楽にします。今日もここまでで一時間五〇分喋ってるんですけど、この音声(音声入力もかなり精度上がってますよね)のスクリプトを放り込んで、「誤字脱字を直してください」「これこれのターゲットに向けての文書に書き換えてください」と入れると、一気にドラフトが仕上がるということで、めちゃくちゃ楽に、ざっくり文章が書けます。音声入力との組み合わせはされてる方もいらっしゃるかもしれないですけども、大量に文章を書きたいとき、ぜひ試していただければと思います。

同じく議事録とかインタビューみたいな「起こし」を全部読んでいられないというときに「要約してください」というプロンプト放り込んで、要点を絞ったうえで大事なところだけ読みます。一〜二ページくらいだとぜんぜんたいしたことないんですけど、一〇ページ、二〇ページあると、その時間がもったいないということで、タイパにいいかなと思います。

それから、海外記事を貼り付けて日本語訳もやってます。今日のポッドキャストの放送、ニュースコネクトで、ブリンケン国務長官が中国を訪れたニュースを取り上げたんですけども、今日のこの会のためにちょっと試しでやってみました。

英語の文章をDeepLへ放り込むのはたぶんみなさんもされると思うんです。でも、大量の文章を読まないといけない。長いので、最初のほうの内容を忘れちゃったりしませんか。なので、こういうプロンプトを入れます。
「以下のNYタイムズの記事を要約して、それを日本語にしてください」
めちゃくちゃやばい上司ですよね(笑)。

そうするとですね、スクロールせずに一画面で見られるくらいの文量で出てきます。もともとの記事は四スクロールぐらいの文章なんですけども、これだけ短くなって出てきた。僕は超短時間で「なるほどニューヨーク・タイムズこういうこと書いてるのか」って掴んで、そのうえで、昨日のニュースで使ったのは、このうちの五行分です。「財務長官、商務長官、大統領特使が行って、中国からは逆に外務大臣が行く。アメリカが不信感を克服するにはさらに努力が必要」と。ここは情報として使えるなと思って、ここだけ原文を読みました。

同じようにガーディアンの記事もやりました。日本語に訳すところまで指示するのがめちゃくちゃやらしいですよね(笑)。英語で飽き足らずに日本語に訳せと。ここで実はけっこういい情報が取れたんです。ブリンケンが北京に到着したときに、北京の空の色を鉛色に映していると中国がクレームしてるんですよ。このことは、日本でニュース記事にはぜんぜんなってなかったんです。そこで、このガーディアンの記事をざっくり翻訳要約して、日本語に直してくれたものを見つけて、これはおもしろいと思ってリサーチ、原文にあたったという使い方をしました。

みなさんは記事を書くわけではないにしても、なにかリサーチされることはあると思うんですよね。海外のリサーチもされると思います。DeepLが優秀なので使われると思うんですが、まぁ全翻訳を読むのは長いですよね。もともとが長いですから。そこで、サマライズ、です。ChatGPTの優秀なところは、サマる、要約する力です。この無敵のカードを切って、手早く情報のコアなところを掴んで、該当部分の原文にあたるという手法は、けっこういいんじゃないかなと思います。

インタビューも、テープ起こしを放り込んで、プロンプトで「以下はインタビューの続きです。あなたは優秀なエディターです。誰々さんのエチオピアでの経験、気づきに焦点を当ててビジネスパーソン向けに要約してください」とやってみたんです。ふつうにちゃんとやってくれました。部下や同僚があげてきたような大量の情報をさばくときにこういう使い方が有効じゃないかなと思います。

さきほど会場の方も「Twitterでプロンプトを拾ってる」っておっしゃったんですが、本当にそれがいいと思います。いろんな人がいろんなものをあげているので、それを引っ張ってきて試してみる。自分が使いやすい形にカスタマイズしてやるのがいいと思います。

まだあんまりやったことがないっていう方には、めちゃくちゃ古典的なんですけど、まずは情報収集することをお薦めします。

すでに本も出てるんですよね、たくさん。私も当初、ChatGPTに割く時間があんまりなくて、いろんな情報、記事も出ててややこしいなと思ったので、すぐ出たこの本二冊(『ChatGPT120%活用術』『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』)と、プレジデント(2023年6/30号)を買って読みました。

『ChatGPT120%活用術』宝島社 (2023/5/10)


『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』インプレス (2023/4/6)
ChatGPT仕事術大全 (プレジデント2023年 6/30号) 、プレジデント社 (2023/6/9)

本と雑誌では、趣旨が違うんですけど、こっち(『ChatGPT120%活用術』)は、プロンプトがばあっと載ってる感じです。こっち(『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』)は概念、ChatGPTがどういうものかっていう説明が載っています。これらを電車の移動時間で読んで理解して、使えるやつをどんどん試してます。

なので、本はショートカットですね。本よりも早いスパンで組めるのが雑誌なのでこれも参考にして、すぐ使えるプロンプトは試してみる。さらにもっと早いのはTwitterとかブログとかデジタル記事とか。

それぞれの媒体の出す速度が違うので、出遅れたっていう場合は本をさっくり読んで(うまくまとめてくれてるんですよね、編集者が入って)、まず基礎の概念とプロンプトをおさらいして、最近のトレンドみたいなのは、一ヶ月に一回のスパンで出される雑誌を活用する。さらに細かく、Twitterとかデジタルメディアの記事で(アイデアソンみたいにリアルタイムでみなさんが出しているので)、それをどんどん導入していくということかなと思います。

私たちもChatGPTっぽく文章をつくっている

小山 ChatGPTは、トランスフォーマーっていう形式のAIを使ってるわけなんですけども、それはアテンション機構、要は膨大な情報があるなかで、ここにアテンション、注意を向けるっていうことです。注意ってなにかっていうと、この文章が来たときには次は確率的にこういう文章や文字が来そうだと文章を組み立てている。だからChatGPTは、内容をまったく理解していないですよね。でも、確率論的に文章を並べていって、パラメータを増やすと意外とそれで意味の通じる文章をつくってくれるということがわかって、それでChatGPT、とくにトランスフォーマー型のAIが、いま一世を風靡しています。このトランスフォーマー型のアテンションって考え方が、実は、今回やった仮見出しの考え方と、たぶんね、一致してるんですよ。

つまり、トランスフォーマーっていうのは仮見出しが来たときに、仮見出しから続きそうな文章を生成してるんですよね。

小山 今回の野上さんの手法も、仮見出しをつくってそこから、ありそうな文章を作っていく。実はわれわれは、ChatGPTっぽく文章を書くんですよ。

なんとなく書き慣れてるとか、聞き慣れてるとか、読み慣れてる文章を並べていくっていうのを得意としていて、実はアテンションで書いてます、われわれも。なので、今日の前半の文章術っていうのは、いまの最先端のAIのアテンション機構と非常に類似していて、ChatGPTを使うことによって、また文章術も深く理解できるのかなって思っていました。

というところで、ちょうど時間切れです。本当はもう一時間くらい喋りたいところではありますが、お時間が来てしまいました。慌ただしい終了となりますが、みなさん、改めて野上さんに拍手をお願いします。野上さんありがとうございました。

野上 ありがとうございました。


野上英文
JobPicks編集長/ジャーナリスト

2003年から朝日新聞社で大阪社会部、経済部、国際報道部、ハーバード大学客員研究員、ジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務めた。40歳を機にマサチューセッツ工科大(MIT)経営大学院に私費留学してMBA修了。2023年からNewsPicks for Businessに参画し、同4月にJobPicks編集長就任。NewsPicks+d統括編集者も兼務してメディアの事業戦略と成長を担う。NewsPicksトピックで連載コラムの執筆、News Connectパーソナリティなどを務めるほか、ビジネス文章術やZ世代の働き方などで講演多数。大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞受賞。著書に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)、共著に『ルポ タックスヘイブン』『ルポ 橋下徹』『プロメテウスの罠4』『証拠改竄』ほか。

『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)

小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター

京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。

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