新しい都市緑化のかたち〜循環化と歴史化
全国都市緑化フェアというイベントが始まったのは、1983年のことであった。都市化が進む中で緑が減少し、都市部の住心地が悪くなっていくなかで、都市緑化意識の高揚を目的に開始されたものだ。第一回の大阪府を皮切りに、毎年全国のさまざまな地域を巡回しながら実施されている。
この背景にあるのは、都市のアメニティという考え方だ。アメニティというと、ホテルにある歯ブラシやせっけんなどの「アメニティグッズ(和製英語)」を思い浮かべるかもしれないが、ここでいうアメニティとは、都市計画における重要な概念としての言葉だ。19世紀に劣悪な都市の公衆衛生の改善が重視され始め、19世紀末にエベネザー・ハワードによる田園都市運動が始まり、都市と農村の融合が図られるようになった。1959年には、スタタードによって「美、快適さ、上品さ、豊かな生活を享受する機会」というアメニティの定義が提唱され、1967年にはシビックアメニティ法が制定された。
全国都市緑化フェアは、この都市におけるアメニティ向上の文脈に位置づけられる活動である。2024年の今回は、私の住む、市政100周年を迎える川崎市が舞台である。工業都市として有名で、公害によるぜんそくが問題となったことで教科書にも載っている川崎市ではあるが、実は、その地域内に多摩川が流れ、大型の緑地公園をもつ、自然豊かな地域でもある。今回の全国都市緑化かわさきフェアでは、95ヘクタールもの広さをもつ生田緑地、43ヘクタールの等々力緑地、川崎駅近くの富士見公園を主要会場として、10月19日〜11月17日の秋期間、3月22日〜4月13日の春期間のふたつの期間に分けて実施される。
この全国都市緑化フェアのコンセプトは、しかし、近年においてアップデートが求められている。単に緑化して生活環境を改善するということだけではなく、環境負荷の低減により、持続可能な環境づくりを進めていく、より未来志向のアメニティが重要になっている。私たちは、今現在、快適であれば将来どうなってもよい、という無責任な態度では、もはや満足しない。未来への貢献を組み込んだ、循環型の取り組みが重要になってきている。
また、過去の歴史や文化についても、アメニティを構成する重要な要素として考えられるようになってきた。この背景には、戦後の文化財保護から歴史的町並みの保全、そして歴史まちづくりへとつながる長い取り組みがある。過去の歴史を掘り起こし、それを再定義し直すようなアプローチが必要だろう。都市開発の過程で、過去の歴史はすっかり消されてしまった地域も多い。その消された歴史を、もう一度新しく再発見していくことが欠かせない。歴史の中に位置づけられることで得られる豊かな生活があるからだ。
「緑化」とは、一義的には、市街地に草木を植えて緑を増やすことである。しかし、ただ都市に緑を増やすだけではもはや十分ではない。都市の緑化とは、都市を「循環化」することであり、さらに過去の歴史が消去された都市の「歴史化」。このふたつの取り組みが重なったところの「都市緑化」を考えてみたいと思っている。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師