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野生児チザム選手の魅力

大谷選手、山本選手の所属するドジャースが、4年ぶり8度目のワールドシリーズ制覇を決めた。ヤンキースにミスも重なり、5点差をひっくり返しての勝利だった。ここ最近、ワールドシリーズに進出していなかったヤンキースの経験不足が露呈した、というのが、一般的な見方だろう。なんでもないセンターフライをジャッジ選手が落球したり、ウィーバー投手が三度目の牽制をしてボークになったり、凡ミスが多かった。大舞台では、いかに冷静にいつもどおりの試合ができるかということが、勝負の分かれ目になるのだろう。

しかし、そのヤンキースにあって、がむしゃらに野球をやっているチザム選手が、見ていて楽しかった。バハマ出身の彼は、解説者から「野球IQが低いですから」と言われるほど、なんというか、何も考えずに野球をやっている。このチザムがこの試合、記録には出ないびっくりするようなプレーを見せていた。

6回裏のヤンキースの攻撃。5対5のノーアウトのランナー1,2塁の場面で、このチザムに打席が回ってくる。ここは、最悪でもランナーを進める進塁打を狙うべきなのだが、まったくそんな素振りは見せずに、決めてやるとばかりにホームラン狙いのフルスイング。まずは一点の勝ち越しを狙うなんて考えはない。

フルスイングするチザム選手

ベンチもそれを察知して、送りバントのサイン。チザムはいやいやバントするものだから、これがファウルになってツーストライク。追い込まれたチザムは次の三球目を打って、セカンドゴロ。セカンドランナーを三塁まで進める進塁打にはなった。これで犠牲フライで得点できる状況が生まれた。結果オーライ。しかし、ベース上では浮かない顔のチザム。

最低限の仕事をしたのに浮かない表情のチザム選手

そして、このワンアウトの一、三塁の場面で、今度はスタントンが左中間への大きなフライを放つ。犠牲フライには十分すぎる距離。よし、これで勝ち越しだ。と思いきや、ソトが悠々とホームに帰ってこようとするなか、なぜかチザムが一塁から二塁へのタッチアップを敢行したのである。

それを見たセンターから二塁に鋭い返球が返ってくる。フライがキャッチされた時点でツーアウトであり、もしチザムが先にアウトになったら、ソトの得点が認められない。ソトはあわてて、全速力でホームを駆け抜けた。チザムはこのとき、二塁を狙う必要なんてまったくない。まずは確実に勝ち越すことが重要で、リスクは避けるべきだった。にもかかわらず、チザムの本能が二塁を狙わせたのだ。

リプレイ映像でタイミングが検証されていた

チザムは足も早く、パワーもあり、運動能力の優れた選手だ。そのありあまる運動能力を爆発させ、本能の赴くままにプレーする。そこに、原始的な身体的喜びが溢れていた。8回の場面では解説者に、前のランナーをうっかり追い越してアウトにならないよう心配されたが、そんなリトルリーグ並みこともうっかり起こりそうなチザム。

この身体的爆発だけでは、ワールドシリーズでは勝てないのか。ヤンキースの敗北は、このチザムの敗北でもあった。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師

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