論文執筆指導とアーギュメント設計
今年ようやく博士論文を書き終えた身なので、まったくもっておこがましい話なのだが、京都芸術大学修士課程のゼミ生の論文指導を行っている。制作した芸術作品といっしょに論文の提出が義務付けられており、その論文の指導となる。そのため、一般の修士論文よりは分量は軽いのだが、それでも論文を書きなれない人にとっては、たいへんな作業だ。そこで今日は、M1の学生に向けて、論文の書き方のレクチャーを行った。
もちろん、私の拙い経験だけではレクチャーにならないので、今回は、今年発売されて話題になった『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』を使って行った。この本は、ニューヨーク州立大学にて2023年に博士号を取得し、筑波大学の助教として日米文化史を研究する著者によって書かれたものである。文系の、しかも文化に関する論文執筆の参考とするのに、適切であろうという判断だ。
この本の一番の特徴を上げるとすれば、やはり「アーギュメント」の重視だろう。今回のゼミでも、このアーギュメントの磨き上げに力を入れた。このアーギュメントは、論証の必要な主張である。
たとえば、次の4つの文章はアーギュメントではない。
(1)は事実であり、(2)はトピックの設定、(3)は方法論の宣言であり、(4)は価値判断である。どれも、論証なしに納得できないような内容ではない。アーギュメントになりうるのは、たとえば、「『アンパンマン』においては、アンパンマンとばいきんまんという男同士の物語が、女性キャラクターを周縁に追いやっている。」というように論証が必要な主張であり、かつ反証可能なものだ。
一方、多くの論文執筆本が主張するような「論文には問いが必要である」というテーゼを否定する。問いも結局は、アーギュメントから逆算してつくることができるからだ。さきの例で言えば、「『アンパンマン』においては、アンパンマンとばいきんまんという男同士の物語が、女性キャラクターを周縁に追いやっているだろうか。」と疑問形にするだけだ。それであれば、アーギュメントの形にして、その強度を強めていくほうが本質的だ。ビジネスパーソンであれば、安宅和人の『イシューからはじめよ』を思い出す人も多いかもしれない。
このアーギュメントをもとに修士論文を書くためには、もちろんアカデミックな価値を持ったアーギュメントであることも欠かせない。そのために先行論文を読んで文脈を把握し、そのなかでこの論文を位置づける必要がある。短い時間であったが、先行研究のたどり方も紹介した。
そうして、アカデミックに価値のあるアーギュメントを設定したうえで、ワンパラグラフ・ワントピックの原則を守りながら、パラグラフ・ライティングを行っていく。ここに、バーバラ・ミントのピラミッド原則などを組み合わせながら、ロジックを構築していく。このあたりは、実はビジネスもアカデミックも関係なく、同じ演繹と帰納のロジックを駆使していくことになる。
こうして論文の書き方(の基礎)を教えつつ、ちゃんと論文を書き続けないといけないと、改めて思った。こうして書いている文章も、論文執筆の体力づくりであり、マラソンを走るための日々のジョギングという位置づけなのだが、ここ最近、一向にマラソンにでる気配もなく、よくないなと思った次第。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師