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現実に裏打ちされた虚構

東京都写真美術館の『見ることの重奏』で気になった作家が、チェン・ウェイ(陳維)だ。2006年から本格的に活動を始めたチェンは、2010年にはバーゼルのアートフェアで脚光を浴びる。モデルを使った撮影では、作られたシーンではあるものの、そのことがかえって、現実のリアリティを伝えてくれる。

今回展示されていたIn the Wavesでは、ナイトクラブで踊る若者たちを撮影しているのだが、カラフルな照明は作為的で、ダンスする若者の所作もどこかわざとらしい。激しい動きを伝えるためにブラすようなこともせず、速いシャッタースピードで被写体の動きを止めてさえいる。

チェン・ウェイ 《IN THE WAVES #5》 2013 年 東京都写真美術館蔵

そもそも、クラブ空間が現実逃避的ではある。そこにやってくる若者も、厳しい現実の世界から逃げてやってくるのかもしれない。チェンがその空間をフィクションとして演出すればするほど、実はそうした若者たちの心象に重なってくる。私たちは現実の中にだけ生きているわけではない。むしろ、自ら作り出したフィクションや、演出されたフィクションの中で、無自覚に、ときには自覚的に騙されて見せるのだろう。

このフィクション性は、いわゆるインスタ映えする写真に対する批評にもなっているようにも見える。カラフルな照明に照らされたクラブ空間は、格好の映えスポットだろう。しかし、チェンの写真には外面的な高揚感は映しだされていない。むしろ、若者は内向的で、その注意は内面に向かっているように見える。フィクションがフィクションであることをわかっている。インスタ映え写真の虚構に対する、虚しさのような感情を感じる。

チェンの写真は、このように多様なフィクションが、丁寧に折り重ねられている。写真のフィクション性をリアリティによって覆い隠すのではなく、むしろフィクションの裏側にリアリティを忍び込ませ、裏打ちさせる。チェンの確かな手腕を見た。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

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