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アクターとしての古民家とそのネットワーク

エクスカーションの翌日に行われた「古民家など地域の歴史的資源を活用したまちづくりフォーラム」では、創造遺産機構の金野幸雄さんと佐圓拓也さん、高知県観光アドバイザーの丁野朗先生、安芸市で古民家を活用した宿泊事業を行っている「東風ノ家」の仙頭杏美さんを交えて、パネルディスカッションを行った。

古民家を活用するためには、そのビークルとしてまちづくり法人が必要だという金野さん、佐圓さんからの問題提起から始まり、そのビークルを作るためには、実は人のネットワークづくりが重要だという丁野先生の実践に基づく提案、仙頭さんからは実際に地域でビークルを作るうえで、たとえば資金調達に伴うリスクなどを引き受けるメンバーをどのように集めたらよいのかといった、リアルなやり取りが行われた。このフォーラムの内容は後日、記事にする予定なので、できあがったら共有したい。

さて、ビークルを作るうえで「人と人のつながりが大切だ」というと、当たり前のことのように思うかもしれないが、最近ではアクターネットワーク理論(ANT)において、人間を特権化して扱うのではなく、非人間的要素(テクノロジー、動物、自然環境、さまざまなオブジェクトなど)も同様に、「アクター(行為者)」として扱うやり方が広まっている。この観点から、今回のフォーラムを振り返ってみたい。

今回の重要な非人間的アクターはもちろん、古民家だ。ここに集まったメンバーはみな、古民家の魅力に取りつかれ、それをなんとか後世に残していきたいという思いを持っている。しかし、多くの人にとっては、古民家はまだまだ、古いだけの建築物であり、壊すのにもお金のかかる厄介なものでしかない。ANTでは、こうした古民家を多くの人が理解できるように「翻訳」し、非人間的アクターと人間のアクターなどをつなぎ合わせて、社会的関係を作っていくことになる。

このとき、ANTでは原則として、こうしたネットワークの外部からの影響力を想定しないというところがポイントだ。一般的には、文化庁によって国の指定文化財になるということがあると、文化財の保護が進むといったように、外部的な権威によって事業を進めるという話になる。ANTでは、そうした外部からアクターを拘束するものを措定しない。文化財指定も、ひとつのアクターとして取り扱う。

こうした、人間も非人間的なものもすべてアクターとして取り扱い、そのネットワークを問題にするというのは、意外と現場感覚に近いように思う。現場の人間になればなるほど、社会的な権威を相対化して扱い、前提条件の一部として「想定」する。このとき、やっかいな権威や、社会ルール、会社の方針などあらゆるものが、いちアクターとなって目の前に並ぶのである。

たとえば、参加メンバーは政府の文化財行政にも深く関わっている人が多いが、権威に媚びたり屈することもなく、一方で反権力のようになんでもかんでも反発するのではなく、むしろ権力の内部からものごとを変えていこうというアプローチも、ANT的であるように思う。また、複雑で多様な問題に対して、その要諦を見つけてひとつのソリューションで解きほぐそうとする手法もまた、ANT的であるように思う。南方熊楠の南方曼荼羅を思い起こしてもいいだろう。

このように、ANTは一般的にはかなり抽象的な研究アプローチのように考えられているが、むしろ現場の問題解決としても適用できる。こうした実務的な観点から、ANTを古民家再生の文脈にも適用して考えてみたいと思ったというメモである。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師

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