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ビジョンとしてのビジネスモデル

さきほどの記事に引き続き、中土井僚さんとの対談の話である。https://note.com/bmia/n/n2043cee6867e

中土井さんの著書が提示するパラダイムシフトの一つが、ビジョンである。それまで、未来のビジョンを設定して、それを実現するために現在の活動を行うというふうに、いわば未来のためのビジョンを逆転させ、現在行っているプロセスに命を吹き込むためのビジョンと再定義している。ビジョンプロセシングは、これまで未来に従属していた現在を、私たちの手に取り戻す試みなのである。

ここでの未来は、予測される未来ではなく、信じうる未来である。「信じうる」ということは、はたからみればフィクションだということだ。ハラリによれば、このフィクションを信じられる力=認知革命が、ホモ・サピエンスを地上の勝者にした。ビジョンは、人々を駆動させる信念体系と言える。

今回、この対談イベントを企画した理由は、ビジネスモデルもまた、人々を駆動させる信念体系として機能しているということだ。

私たちはさまざまな企業のビジネスモデルを饒舌に語る。ユニクロは製造小売(SPA)ビジネスモデルで、消費者のニーズを捉えて製造にフィードバックすることができる。研究開発型のビジネスモデルは、すぐれた研究者・エンジニアによる活発な研究開発から価値を生み出し、高収益を上げる。サブスクリプションモデルは、既存顧客のニーズをリアルタイムに把握しながら、安定収益をもとに改善を進めていく。

こうしたビジネスモデルは、共通認識として従業員によって共有される。そして、従業員はこのモデルが機能していることを信じて、日々活動する。迷いなく〈いまここ〉に集中するために、ビジネスモデルへの信念が重要だ。

このような、現在のプロセスに命を吹きこむことのできる信念体系=ビジョンとしてのビジネスモデルというものがあるのではないか。そして実際に、そうやって信じて事業を遂行している実態があるのではないかと思っている。自社のビジネスモデルを理解したうえで仕事をするのと、理解せずに目の前の作業を行っているのとでは、仕事への情熱は大きく変わるだろう。

しかし、ここには、本来ビジョンが持っているべき要素が欠けやすい側面がある。『ビジョンプロセシング』でも紹介されている3人の石工の話がヒントになろう。

3人の石工がレンガを積む作業をしている様子を見て、通りがかりの人が「あなたは何をしているのですか?」とそれぞれに尋ねてみました。
1人目の石工Aさんは「見ればわかるでしょう。レンガを積んでいるんですよ」と答えました。
2人目の石工Bさんは「大きな聖堂をつくっているんです」と答えました。
3人目の石工Cさんは「訪れる人々の心が安らぐような祈りの場をつくっています」と答えました。(中略)一般的にこの逸話は「仕事への姿勢の違い」を示すものとして紹介されがちですが、「VUCAワールドでどう生きるか」という視点でも示唆に富むエピソードです。

中土井僚. ビジョンプロセシング――ゴールセッティングの呪縛から脱却し「今、ここにある未来」を解き放つ (pp.202-203). 英治出版株式会社. Kindle 版.

ビジネスモデルは一般的に、「大きな聖堂をつくっている」ということを記述できるものの、「訪れる人々の心が安らぐ」というレベルの内容を記述するには不安が残る。たしかに、心の安らぎは、価値提案に記述されるべき要素であり、ビジネスモデルの要素として欠けているわけではない。しかし、聖堂を作るためのサプライチェーンにフォーカスし、石工Bさんのレベルでビジネスを捉えてしまいやすいのである。

そうした意味で、「ビジョンレベルでのビジネスモデルデザイン」ということを、ビジネスモデルイノベーション協会としても、これからさらに強調していくことが重要ではないかと思う。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授

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