新規事業におけるメンターの重要性
企業の新規事業立ち上げのお手伝いを、さまざまなレイヤーでお手伝いしている。あるときは制度設計的なところから、あるときは新規事業チームの伴走型支援、またあるときは新規事業提案の審査員。そのようにさまざまな形で支援していると、もっとも重要なレバレッジポイントが見えてくる。それが意外にも、メンターである。
今日もある企業との打ち合わせで話に出したのだけど、まず前提条件として、メンターなしで新規事業推進を行うのは、かなり無謀だ。指揮事業チームは、大企業であっても最初は少人数で、メンバーが持っている知識には限界がある。限られた知識で新規事業を始めようとすると大きく失敗する。大企業は本来、さまざまなノウハウを持っているはずなのに失敗するのは、こうした知識の共有ができないからだ。
両利きの経営の議論も、この点が焦点の一つになっている。出島にするなどして既存事業と切り離すメリットもあるが、さまざまな共有リソースへのアクセスがたたれると、大企業ならではのメリットを享受できないのだ。
しかしここにはデメリットもある。既存事業の感覚で評価されると新規事業潰されるとか、カニバリをおそれて大胆な行動ができないなどの弊害もある。そこはトップマネジメントの強いコミットメントが欠かせない。
そしてもうひとつ、欠かせない要素がメンターの存在だ。いくらトップマネジメントが強いリーダーシップを発揮しても、現場が抵抗することも多い。個人的な経験としても、いくらトップのコミットメントがあっても、無言の抵抗だけでなく、有言の罵倒さえある修羅の世界だ。そんなとき、事業部で力を持つ人が支援に回るメンター制度は、実は両利きの経営を実現するための、実践の知恵のひとつなのだ。
しかしそのメンターがなかなかいない。実績のある人は、過去の経験からダメ出しをする。もちろんそれは良かれと思ってのことで、少しでもいっぱいを減らしてあげようという親心なのだが、それがときに独断的になるのだ。
まず、その経験則が古く、あたらしい世界には有効でない場合がある。そのときには、メンターのありがたい言葉はむしろ、地獄への近道になる。新規事業担当者は首を傾げながらも、その善意に舗装された奈落への道を進むことになる。
仮にアドバイスが正しい場合も、新規事業担当者のモチベーションを下げる関わり方をする場合、ありがた迷惑になる。担当者はある意味、社会人人生をかけて取り組んでいる。そのときに、主体的な意思決定のプロセスをなかば取り上げるような形で判断をするパターナリズムは、超嫌われる。
新規事業はどうなるかわからない。明らかな愚行であっても、やってみるとそこから突破口が見えることもある。その突破口を見つけ出す力は、担当者の内発的な動機づけを源泉とする。ある種の実存的な決断の機会を、愚かなことをする「愚行権」も含め、ときに認めるのがメンターなのだ。
そうした寄り添いのメンタリングのできる人材をどのように育成し、プールしていくか。遠回りのようで、それが実は近道なのだ。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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