AIがもたらす人材育成競争の変化
先ほど投稿した「人材育成競争」の流れに大きな変化をもたらしたのが、生成AIである。生成AIは、膨大なデータをもとに自己学習し、言語や画像、音声などの生成を行う技術であり、その応用範囲は大きく広がっている。これにより、企業が直面する人材育成の課題は新たな局面を迎えている。
生成AIは多くの業務を自動化でき、これまで専門知識が必要とされていた分野でも、その能力を発揮する。たとえば、マーケティングの分野では、AIがターゲット市場の分析や広告戦略の最適化を行い、人間が行うよりも迅速かつ精度の高い結果を提供することができる。また、AIはプログラムのコーディングから創造的なコンテンツの生成まで、多岐にわたる作業を担うことができるようになってきている。
あるイラストレーターが、SNSでこんなつぶやきをしていた。「本当はAIに雑用をお願いして、私はイラストに集中したかったのに、実際にはAIがイラストを描いて、私が掃除や選択などの雑用に追われている」。ロボットに雑用をさせて、人間はクリエイティブな活動に没頭できるという20世紀の夢物語は、なんとも皮肉なかたちで実現されようとしている。
そしてこのことは、人材〈育成〉にも深刻な影を落としている。コンサルタントの世界において、調査や資料作りなどの雑用は、いわば一丁前のコンサルタントになるためのトレーニングとして機能していたが、これがAIに取って代わられようとしているのである。AIなら二十四時間働き続けるし、反応も早い。求めた物と違うものがでてきても、殊勝な態度で作り直してくれる。厳しい指摘をしてもパワハラだの言わない。AIは、ジュニアコンサルタントのトレーニングの場を、はっきりと奪ってしまっている。
AIの登場によって、ジュニアレベルのコンサルタントは完全に空洞化し、判断できるシニアコンサルタントのみが必要とされてくる。それでもなお、ジュニアをシニアに育て上げる人材育成は、不可欠である。AIへ入力するプロンプト作成や、AIの出力したものに対するチェックは、やはり人間が行う必要があるからだ。しかし、このときの判断力というのは、AIが大量のデータを入力することで精度を高めたのと同様、若いうちの膨大なインプットがあるからであって、そのトレーニングの場を奪われた若手がどのようにこのスキルを身につければよいのかは、まだ答えが出ていない。
もうひとつ、企業文化の変革についても触れておこう。生成AIの登場によって、企業は迅速な意思決定と柔軟な対応が求められるようになり、これに対応するためには、従来のヒエラルキーに基づく組織構造を見直し、フラットで自律的なチーム体制を導入することが求められる。これにより、従業員はより大きな裁量を持ち、自らの判断で行動することが可能となり、結果として組織全体のアジリティが向上する。しかしこれは、自ら判断できる人材が大量に求められることを意味し、しかもそれが育ちにくい環境にあるということは、先述したとおりだ。
以上のように、生成AIの普及が進む中で、企業は新しいキャリアパスを構築し、人材育成競争に勝ち抜くための戦略を再定義する必要があるのだ。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
ここから先は
小山龍介のビジネスモデルノート
ビジネスモデルに関連する記事を中心に、毎日の考察を投稿しています。
よろしければサポートお願いいたします。いただいたサポートは協会の活動に使わせていただきます。