構造に思いを馳せる
少し前、韓国のアイドルグループのILLITがショート動画でやたら流れてきて、しばらくヘビーローテーションでリコメンドされてきたけど、素人ながらすごいなと思った。層が厚い。背後には同じレベルの人たちがわんさか、明日のILLITを目指しているのがわかる。New Jeansの登場時もそうだったんだろうけど、特別な彼女たちと特別なプロデュース、という感じがした。ILLITは、仕組み、ビジネスモデルだ。その後、New Jeansのプロデューサーと会社が揉めたのも、属人的なものから離れ、仕組みとして運用していく契機のようなことがあったのかもしれない。
一を聞いて十を知るという言葉がある。これは、あるできごとを経験したときに、その背景にある構造に思いを馳せ、世界の仕組みを理解するということだと思う。韓国アイドルには詳しくないので間違っているかもしれないが、少女時代の世代に比べてさらに大がかりで大人数の仕組みが動いているのを感じさせる。
日本では、サッカーがそうだ。川崎フロンターレのお膝元である武蔵小杉周辺は、とにかくサッカー熱が高く、息子がかつて所属していたチームも、OBにプロや日本代表がいて、ときどき遊びにくる。2022年の日本代表は、近所のさぎぬまSCのOBである権田修一、板倉滉、三笘薫、田中碧が大活躍した。久保建英も、川崎市のFCパーシモンから川崎フロンターレU-10という経歴だ。川崎フロンターレのアンダーカテゴリーが吸引力となってよい選手が川崎に集まり、また地域の優秀な指導者も増えた。そういう構造が、結果としてたくさんの日本代表を輩出することにつながった。
一を聞いて十を知る。そのときの十は、かなり暗黙のうちに知ってしまうという、ポランニーのいう暗黙知が働いている。ポランニーはその際、対象に棲み込む(dwell-in)と言ったが、これは背後にある対象と一体化し、身体的に感知することを示していた。息子のサッカーの試合を見ながら、そこで起こっているできごとの背景も含め、感じ取るようにしている。
これは、柳宗悦の「私なき直観」にもつながっていく。私の中に構造を写し取ることは、私を捨て構造になりきることであり、そのことによって私なき直観が現れる。柳は、エゴイスティックな直観は独断として排除しながら、そうでない私なき直観の重要性を指摘した。私の中では、ポランニーの暗黙知とつながっている。ポランニーのいう遠位項とは、構造のことでもある。ちょっと落ち着いたILLIT動画のヘビロテを振り返りながら、そんなことを思った。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授