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新規事業開発者のためのビジネスモデル・キャンバス活用法

2024年12月12日(木)19:30〜21:00(Zoomにて)実施
講師:小山龍介『ビジネスモデル・ジェネレーション』訳者
主催:一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)

(※本記事は上記にて開催されたセミナーでの講義を記事にしたものです。)


今日はサブタイトルに、「新規事業開発者のための」とつけました。これの姉妹編として「次世代リーダーのための」というセミナーもあります。少し切り口を変えているのは、ビジネスモデル・キャンバス(BMC)は、目的によってずいぶん使い方が違うからです。

講師自己紹介

まず、簡単に自己紹介をします。大学では美学美術史を勉強しまして、その後広告代理店に入社、新規事業の立ち上げをクライアントから依頼されることが多くなって、そこで、ビジネススクールに行って新規事業の領域にキャリアチェンジしました。転職先の松竹という会社で歌舞伎をテーマにした新規事業を立ち上げました。その後、独立をして、サッポロビールさんでワイン開発をしたり、コクヨさんで手帳やノートをデザイン思考をベースにつくったりしてきました。アイデアハックから始まる仕事術の本を書いたり、いろんなご縁があって『ビジネスモデル・ジェネレーション』の翻訳をすることになり、それをきっかけに、ビジネスモデルの研究がスタートしました。ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)を設立したのはこの本が出てから2年後のことです。

『ビジネスモデル・ジェネレーション: ビジネスモデル設計書 ビジョナリー、イノベーターと挑戦者のためのハンドブック』アレックス オスターワルダー (著), イヴ ピニュール (著), 小山 龍介 (翻訳) 翔泳社 (2012/2/1)

これまで、さまざまな企業で、次世代リーダー育成、イノベーション研修、商品開発などを手掛けてきました。加えて、東日本大震災の復興ボランティアをきっかけにいろんな地域の活動にも携わるようになりました。

BMIA総合研究所所長、ビジネススクール教授、ビジネスモデル学会のジャーナルの編集長、文化庁の文化財を活用した地域活性化事業の日本遺産プロジェクトのプロデューサー、京都芸術大学で博士号取得後は非常勤講師として、また、京都の亀岡市にある社団法人で芸術を活用した地域活性化に取り組んでいます。

それから、私自身の会社では小さい事業なんですが、沖縄県の仕事をきっかけにご縁があって、沖縄のやちむんと呼ばれる器を販売するお店を経営しています。そのほか、能の普及啓発や、カメラマンとしても活動しております。

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)紹介

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)について、簡単にご説明します。設立から10年経ちました。全国各地に会員を集めて、また協賛企業にご支援いただきながら活動を進めています。

ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)のいちばんの特徴は、アレックス・オスター・ワルダーとイヴ・ピニュールという、この『ビジネスモデル・ジェネレーション』の原著者をシニアアドバイザーに据えて活動していること。ある意味、正真正銘といいますか、本物のビジネスモデルの使い方を伝えていく活動をしてきた10年間でした。

普及啓発をするにあたって、コンサルタント認定制度がありまして、基礎講座、応用講座、上級講座とプログラムを組んで実施しています。

基礎講座では、今日、紹介するビジネスモデル・キャンバス(BMC)と、バリュー・プロポジション・キャンバス(VPC)の基本的な使い方を学び、その次のステップである応用講座は3つあります。ひとつは、事業を俯瞰する視点(鳥の目)であるビジネスモデル・キャンバス(BMC)、そして、顧客のニーズをしっかり探索する虫の目、これもアレックス・オスター・ワルダーとイヴ・ピニュールが開発したバリュー・プロポジション・キャンバス(VPC)を扱います。三つ目は、シナリオプランニングとワールドカフェを組み合わせてトレンドを見ながら未来を見据えていく魚の目、これらの3つの目を獲得していくプログラムを提供しています。

スキルセットとしてはこんな感じで整理しています。

ビジネスモデルイノベーションが求められる背景

では、さっそくビジネスモデルについて入っていきましょう。まず、この車をご存知の方いらっしゃいますか? 歴史的に有名で教科書に出てきたりもしますが、(受講者からチャットに「フォード」と回答がある)そうです、T型フォードですね。

プロセス・イノベーション

それまでは、職人が手づくりしていました。いまの感覚でいうと二、三千万円する超高級品だったんです。それをベルトコンベアでつくったら、工場勤務の人の2ヶ月分ぐらいの給料で買えるようになった。おそらく、いまの車よりも安い感覚で、ものの数年のうちにこの車が普及したという、伝説的なT型フォードです。車自体は変わっていないけれど、つくり方が変わった。プロセスイノベーションと呼ばれる領域のものです。

自動車業界では、プロセスイノベーションが盛んに起こっていまして、この大量生産がひとつ。もうひとつは、いわゆるトヨタ生産方式です。在庫を極めて少なくし、無駄なくつくっていく。そういったプロセスイノベーションが頻繁に起こってる業界です。

プロダクト・イノベーション

それに対してプロダクト自体を変えるイノベーションがあります。ウォークマンです。当時、音楽再生機器にはスピーカーと録音機能が必須だったのに、それをなくした。社長命令でつくったが、「こんなもの売れない」と社員が思っていたらしく、あえて少なくつくったところ、あっという間に品切れになったという商品でした。

ビジネスモデル・イノベーション

このプロダクト・イノベーションに対して、今日やろうとしているのは、ビジネスモデルのレベルのイノベーションです。たとえば、iPod自体は商品プロダクト・イノベーションなんですけども、そこにワンクリックで音楽が買える。モノからサービスへ、なんて言われ方をしますけれども、そういうことを考えていく時代になってきた。それをビジネスモデルのレベルで取り組まないといけない時代になってきたということです。

現象には理由がある

世の中には、いろんな現象が起こっています。たとえば、大谷翔平現象。大谷選手があんなにブームになっているのは、なぜなのか。どんな理由があるでしょうか。

参加者「単純に、すごい。二刀流もそうですし、成績がずば抜けている」

そうですね。まずは成績がすごい。ところが、いくら成績がすごくても、注目されない選手もいるわけです。たとえばサッカーの久保選手は相当すごいんですけれども、それでも大谷選手ほど話題にならない。その理由を構造的に考えるというやり方があるんです。

さて、ほかにどんな理由があるでしょうか。

参加者「マスコミが取り上げる頻度が非常に高い」

そうなんです。メディア構造が明らかに影響していますね。ちょうど朝のワイドショーをやってる時間帯にドジャース戦がやっている。そうすると、番組の穴埋めにぴったりなわけです。「いま、ホームランを打ちました!」と放送すると視聴率が取れる。逆に言うと、そうしないと視聴率を取れない。

どのテレビ局も朝の時間はコンテンツにちょっと困る時間帯なんです。そこに野球の時間がばっちり合う。ところがサッカーはヨーロッパでやっているので、ちょっと時間がずれるわけです。そうなるとテレビ局は扱いづらい。

また、サッカーと違って、野球はバッティングのときに必ずその選手の出番がありますから(打順が回ってきますから)、そういう意味でも放送しやすいんですね。

こんなふうにメディア構造からも説明できます。

他にどうでしょう。別の観点でなにかありませんか?

参加者「本人の努力と才能ですばらしい成績を残している」

そうですよね。本人の努力と才能。これに加えて、科学的トレーニングを取り入れたことも要因のひとつだと思います。

トレーニング“構造“(って言っていいのかわかりませんが)、トレーニングの仕方がこれまでとぜんぜん違います。みなさんご記憶にあるでしょうか。これで勝ったら甲子園に行けるという県大会の決勝戦、佐々木朗希投手が登板するかと思いきや、監督が「昨日登板したから」といって、佐々木投手を登板させなかった。結果的に負けたんですが、これまでだったらありえない判断ですよね。勝つためには、一回戦から決勝まで全部投げる。汗と涙と根性が高校野球のひとつのストーリーだった。実は大谷選手も、2年生の時、東北大会準決勝で登板回避しています。高校時代からそういう科学的トレーニングのなかで肩を休める、肘を休めることをしつつ、メジャーリーグに行った。もちろん、いまも科学的トレーニングを取り入れています。このトレーニング構造が明らかに影響していますよね。

また、ちょうどメジャーリーグの開幕戦を東京や韓国でやったりというアジア戦略に合致したことも影響を与えていると思います。

このように、さまざまな構造のうえに大谷現象が成り立っていると言えます。これは、ひとつの要因に収斂することはできません。ロジカルシンキングのように、「人は死ぬ」「ソクラテスは人である」「だからソクラテスは死ぬ」という、三段論法的なロジックでは説明できないのです。

構造的ロジックの必然性と重要性

2000年代は、この三段論法と、MECE、もれなくダブリなく問題を分解して問題解決をしていました。ところが、分解して三段論法で解いても、大谷現象は説明できません。なぜならば、もちろん大谷選手の才能、その才能を伸ばすための科学的トレーニング、そしてそういう選手に着目し採用しようというメジャーリーグのアジア戦略、日本人選手の価値の捉え方があって、そのうえで、朝の時間帯にちょうど日本のメディアが取り上げる。という、複合的な要素が組み合わさった結果です。構造的ロジックでなければ、なかなか説明がつきません。

そういうその構造的ロジックの時代に入ってきたっていうことが言えるんだと思うんです。もちろんロジカルシンキングはいまも非常に重要な考え方です。同時に、複合的にいろんな要素を連携させて考えていくやり方が非常に重要になってきて、これをわれわれは「構造的ロジック」と呼んで、この考え方も重視していこうとしています。その考え方のなかにビジネスモデル・キャンバスがあります。

会社には経営戦略がありますね。中期経営計画、3年とか5年とか、その期間でこれを目指そうと考える。売上を2000億にしますとか、利益率を10%にしますとか。そういう経営戦略があったときに、それを実際にやろうとすると、たとえば売上を上げるのは、頑張って売り込むみたいなことで達成できるかもしれませんが、利益率はそうはいきません。構造的に決まってしまいますね。「このビジネスをやってる以上、利益率5%以上は取れない」ということもあるわけです。

ここでビジネスモデルを変えなければならない。

経営陣が言ってることはプランニングのレベル、「計画レベル」です。そして、実際にやろうとするインプリメンテーション、「実行のレベル」があるとしたら、その中間で、「設計レベル」、アーキテクチャルなレベルを扱うことになります。これはつまり構造のロジックを使いこなさないといけないということなんです。

こういったロジックを使いこなすことが、おそらく新規事業においてはより一層求められるんじゃないかと思います。ビジネスモデル・キャンバスを、新規事業にどう活用できるのか。今日の本題です。

いまからみなさんにはグループに分かれて話す時間をとりたいと思います。まずは自己紹介と、ビジネスモデル・キャンバスをどんなふうに活用されているのか、共有してください。

(グループワーク)

私も一瞬だけ皆さんのルームに入ってみましたが、本当にいろんな立場の方、業界の方がいらっしゃっていますね。

コンビニのビジネスモデル

では、ビジネスモデル・キャンバスの使い方についてお伝えしたいと思います。

BMIAで定番にしているワークがあります。コンビニエンスストアのビジネスモデル。みなさん、ふだんコンビニを使われてると思います。コンビニを知らない人はいないだろうということでコンビニを例に挙げて説明します。

CS(顧客セグメント)

「忙しい社会人」をいちばん右の顧客セグメントに置いてみます。ドミノ倒し的にこのビジネスモデルキャンバスを描いていくのですが、これを出発点とします。

VP(価値提案)

みなさん、コンビニはよく使われますか? スーパーやAmazonもあるのに、どうしてコンビニを使うんでしょうか?

参加者「便利な場所にあって、さっと買えるからです」

そうですよね。スーパーってふつうに考えるとちょっと遠くにあります。車で行かないといけなかったり、それなりの距離がありますが、コンビニはそれこそ密集地には300m先にもう一軒、また100m先もう一軒とあったりします。

そこで、価値提案に「いつでも」「どこでも」と入れました。

価値提案(バリュー・プロポジション)、プロポジションとは、前もってポジションを取る、ということですね。つまり、いろんな選択肢があるなかで、「前もってこれはこういうところがいい」と選ばれる。「お客さんがそれを選ぶ理由」と考えてください。

CH(チャネル)・CR(顧客との関係)・R$(収益の流れ)

買い物する手段はいろいろあるけれども、そのなかからコンビニを選ぶ理由はなんですか。「24時間いつでも、どこででもすぐ買えます」これが価値です。チャネルは、「店舗」です。店舗を通じて、「セルフサービス」で、最近は割引も多少しますけども、スーパーに比べたら多少高い価格(定価)で売っている。

コンビニの裏側にある「価値を生み出す仕組み」

ここまでは、いわば表舞台、利用する立場のわれわれにもよく見える部分です。ところが、コンビニの裏の仕組みって、ご存知ですか? ここで、スーパーとコンビニはビジネスモデルがまったく違うんだということがわかります。言ってれば、スーパーと百貨店ぐらい違います。

なんとなく違うんだろうなぐらいは感じているかもしれないけれども、その違いは具体的になんでしょうか。同じ小売なのにビジネスモデルが違う。今回、イトーヨーカ堂とセブンイレブンが分離されますが、分離しても問題ないんです。ビジネスモデルが違うので、分けることが可能なんです。

別の観点から言うと、スーパーのビジネスモデルだから、ローカルスーパーが生き残れる。子どものころ、福岡に住んでいたんですが、そこには「サニー」というスーパーがありました。当然、全国にあると思ってたら、実は違った。みなさんの近所や出身地にもそういうスーパーありますよね?

一方、ローカルコンビニはもうほとんどなくなりました。唯一残ってるのはセイコーマートくらいですよね。これはなぜかというとビジネスモデルが理由なんですよ。

KA(主要活動)・KR(キーリソース)

まず「いつでも」「どこでも」という価値を生み出すための活動として、どうしても避けられないのが「少人数運営」。多人数でやっていたらとても24時間開けません。本当に厳しいときはワンオペレーションも可能な運営体制にしています。これがビジネスモデル・キャンバス(BMC)でいうとKA(主要活動)に入ります。少人数運営の合理化された運営スタイルで、24時間営業、つまり「いつでも」という価値を生み出しています。

もうひとつ、「どこでも」展開するためには、小さな敷地面積でやらざるを得ないという制約条件があります。昨今、鉄道事業者と組んで、JRの西日本であればセブンイレブンが入ってますし、近鉄はファミリーマート、東急など東京のほうはローソンと組んで展開しています。駅のプラットフォームの本当に狭い敷地面積でも展開できる。このあたりも、実はスーパーとコンビニを決定的に分けるビジネスモデル上の違いです。

その違いは、KA(主要活動)にもうひとつ現れています。日々の活動でスーパーはやっていなくて、コンビニがやっているある活動。どんな活動でしょうか。

参加者「頻繁に商品を納入している」

はい。そうですね。コンビニのあの狭い敷地内にはストックできる場所がありません。スーパーにはバックヤードと呼ばれる場所があって、ある程度のロットをバックヤードに運び込めますが、コンビニはそうすることができません。

商社の方に聞くと、全国的にとにかく三回は必ず配送しようというのが目標みたいですね。とにかく多頻度配送を行っています。在庫が置けないので、売れたらすぐにジャスト・イン・タイムで補充していく。いわばトヨタ生産方式の物流版です。

ちょっと話がそれますが、トヨタの生産方式は、実はアメリカのスーパーマーケットに着想を得ているんだそうです。大野耐一がアメリカに視察に行ったときに、スーパーマーケットで、商品がなくなった分だけ補充されているのを見て、これなら過剰在庫になることはない、前工程の人が作りすぎることがなくなる、と着想したといいます。在庫置き場のことをストアと呼んだりするらしいですね。

いずれにしてもそういう無駄のない物流を前提としてるということは、KR(キーリソース)として、「高度物流システム」が必要です。

C$(コスト構造)

ローカルスーパーには「高度物流システム」は必要ありません。JAから大量に仕入れるので、三日に一度とか、一週間に一度の補充ですむのに対して、コンビニは一日三回、朝食の前に焼きたてのパン、お昼の前に、また夕食の前に作りたての弁当というように、多頻度配送、それを実現する高度物流システムがあります。ですから、「物流コスト」がかかるんですが、「在庫コスト」は低く抑えられる。

KR(キーパートナー)

ただ、高度物流システムは、商社が入らないとなかなか実現できません。ローソンは三菱商事(今は50%になりました。KDDIが半分持っています)、伊藤忠がファミリーマートには伊藤忠、セブンはいろんなところとおつきあいがあるようですが、後ろでは三井物産が支えています。いずれも「商社」が入っています。

それから、「ポイントカード」、nanacoやPontaとか、FamiPayなどで囲い込んで、「オリジナル商品」でさらに惹きつけていく。こういうビジネスモデルです。

このように、サプライチェーンマネジメント(仕入れ・製造・出荷・販売)だけでなく、どうやってそれを魅力的にして選んでもらうかというマーケティング、お金をどう融通するかというファイナンス、さらにはヒューマンリソース、そしてそれらをインテグレーションしていくというビジネスモデルが動いている。これらを統合して捉える、構造的ロジックが働いているということです。

新規事業のビジネスモデル仮説をつくってみよう

今日はさっそく、このビジネスモデル・キャンバス(BMC)をみなさんにも使っていただきたいと思います。今日は「新規事業」というテーマで集まっていただいていますので、新規事業のビジネスモデルをつくってみたいと思います。

新規事業テーマをこの場でぱっと決めたいのですが、最近、気になってる事業とかサービスとか商品とか、なにかありませんか。

参加者「教育業界にいるので、発達障害の子どもたちの支援ができるようなサービスがあればいいなと思っています。」

ありがとうございます。非常に興味深いですね。発達障害となると、その領域の知識がないとむずかしいと思うので、こうしましょう。「AIを使った教育サービス」の初期のビジネスモデル、仮説としてつくってみましょう。

みなさんにはワークシートをPPTで共有します。

これは、われわれ、ビジネスモデルイノベーション協会がふだん使っているBMCシートです。各ブロックに説明も入れてあります。困ったときに参考にしてみてください。

ふせんを模したテキストボックスをつけてありますので、それに書いて置いていってください。直接書き込むこともできるんですが、後から動かせるという意味で、この四角いボックスに書いて置いていっていただくほうが、のちのち融通がききやすくなります。

AIを使ったサービスですので、AIエンジニアが社内にいるという前提です。みなさんはビジネスサイドの立場で、エンジニアは「俺のスキルがあればなんでもつくれる」と言ってくれていて、いまからビジネスを設計しようとしているという想定です。どんなビジネスモデルの仮説をつくるのか、まずは試行錯誤してみましょう。グループで話し合って仮説をつくっていただけたらと思います。時間は10分間です。

(グループワーク後、1グループが発表。そのビジネスモデル仮説に対してのディスカッションが行われました。)

ビジネスモデル・キャンバスを使う意味

今日、みなさんに体験していただきたかったのは、このビジネスモデルキャンバスを使うと、今日初めて会った、業界も年齢も経験も違う人同士が、同じ土俵で議論ができるということです。

新規事業で、すごくむずかしいのは、エンジニアも、法務部も、営業企画系、もちろん経営系、いろんな立場の人が、同じ言語を使って議論しなきゃいけないこと。しかもそれがお互いつながり合っていて、一部分だけ切り出して、たとえばマーケティングだけを議論する、みたいなことではない、ということです。

今日の例でいうと、「AIを使うので(人力じゃないから)、ライザップのような保障ができる」など、全体の構造的ロジックを組み立てることになります。新規事業は、異業種、違う立場の人たち、また外部のパートナーと同じ言語を使ってアイデアを議論することになります。ここにこそ、このビジネスモデル・キャンバス(BMC)の可能性、活用の方法があるんじゃないかということを体験していただきました。

具体的にどんなふうに活用できそうですか?

私のほうからは概略でお伝えしましたが、せっかくなので、みなさんに「ビジネスモデルキャンバスをどんなふうに活用できそうか」、こんな場面でこんなふうに使えそうだ、自分はこういうことやってるんだけどここで使えそうだ、という具体的な活用方法のアイデアをグループで話してもらい、全体で共有できたらと思っています。

(グループワーク後、チャットで共有してもらいました。)

•上司を説得するのに使えそうだ(検討の方向性の合意)
•頭の中を整理するのに使えそうだ(それぞれの関係性)
•実務の前のシミュレーションに使えそうだ
•足りない部分に気づくための道具に使えそうだ
•取引先(お客様)の分析に使えそうだ(使える)
•既存の事業の分析に使って、一部変えて進化させるとか
•組む相手を変えるなどもありうるなぁ
•結論:色々使えると思う!!!

・新しいサービスを考えるきっかけ
・論点を明確にできる
・新規事業の足りないものを可視化
・足りないものを埋めるパートナーの分析(相乗効果の精査)
・顧客を自社従業員と置いた時に、社内向けに使える(例:人事施策など)

•ヒアリングからのBMC落とし込みツール
•企業活動のBMC可視化ツール
•上司説得ツール

・各部門ごと(人事、経理、営業、研究)のビジネスを見える化する
 →相互理解も深まる
・自分個人の自己紹介にも使えるのでは
・お客様へのアンケートを取る時に(こういう提供価値を考えている)

・お客様と社内の板挟みになるときの問題解決に
お客様はこう言ってる、社内はこう考える→解決策を見出す
・社内で企画部門として開発部門に全体像を見渡させる 違う部署との意思疎通
・フィードバックを得やすい
・会社の中の主軸のサービスを違う形のビジネスに変える
・利益を出す構造まで考えさせる

・新入社員への自社のビジネスモデル共有
・新しいところに営業へ行くとき(顧客分析)
・クライアントのインタビュー
・カウンセリング
・経営者と社員との経営理念の共有
・経営パートナーとのコミュニケーション
・サプライヤーの開拓
・自己紹介(名刺の裏に自分のことを書いておく)
・キャリアコンサルティング

各グループからのチャット投稿を原文ママ掲載

ビジネスモデル設計についてもっと知りたい方のために

BMIAには、ビジネスモデル・キャンバス(BMC)と、バリュー・プロポジション・キャンバス(VPC)の使い方を一度に学べる基礎講座があります。

今日は、ビジネスモデル・キャンバス(BMC)の本当にさわりの部分をお伝えしたに過ぎないのですが、実際にこれで企業の分析をしたらどうなるのか、新規事業の、とくに収益モデルも含めた深い議論をするにはどうしたらいいのか、顧客のニーズを落とし込んだ事業案にするにはどうしたらいいのか。このあたりのことを基礎講座で扱っていますので、ご興味ありましたらぜひ受講をご検討ください。

2025年1月18日〜19日の2日間はオンラインで、それから3月22日〜23日の2日間は品川の会場で開催します。

Q&A

残り5分ほどとなりましたが、質問を受けてお答えできたらと思うんですけども、いかがでしょうか?

時間の流れはどう表現したらいいですか?

「BMCを今日初めて使わせていただきました。時間の流れはあんまり気にしなくていいのでしょうか。つまり、たとえばまた二年後とかに、もう一度つくってみる、というようなイメージでいいんでしょうか?」

はい。そのとおりです。このビジネスモデル・キャンバスはスナップショット、つまり今日、12月12日のこの瞬間のビジネスモデルを表現したものになります。

たとえば、みなさん、ユニクロ、ご存知ですよね。ユニクロのビジネスモデルもだんだん変わってきていますよね。最近、高級になってきましたよね。低価格商品をGUが受け持ち、少し品質も良いライフウェアみたいなポジショニングをとっています。

つまり10年前、20年前のユニクロと、いまのユニクロとでは全然ポジショニングも違うし、マーケティングも違う。商品開発の方向性も実は微妙にやっぱり違うんです。

ビジネスモデルは時間とともに変わってきます。ビジネスモデル・キャンバス(BMC)はスナップショットなので、その時期、その時期のビジネスモデルは描き分ける、ということです。

既存事業の分析をする際にはどこから始めたらいいでしょうか?

「組織内での活用に関する質問です。初めてBMCに触れる人たちは、なかなか埋めていくのがむずかしいと思うんですけど、一方で、今日、要素がすでに埋まった段階でグループワークをしたときは、すごく建設的な質問や、要素を埋めてくような発言があったと感じました。たとえば、組織のなかでBMCを使って、自分たちの事業分析を行うときには、仮にでも要素を入れたうえで、それをもとにみんなで考えるほうがいいのか、要素を埋めていくことからやったほうがいいのか、どちらがいいでしょうか。」

次回は、「次世代リーダーのための」というセミナーをやるんですが、それにも絡んでくる質問かと思います。たぶん、BMCを使う方には二通りあって、今日みたいにゼロから新規事業を立ち上げるという方と、もうひとつは既存事業があって、そのビジネスモデルを把握し、それを改善をしていくという方と二通りあると思います。

いまのお話ですと、既存の事業があってそれを土台にして、改善の建設的なアイデアを出していくという場面かと思うのですが、その場合は、すでに自社にあるリソースや、すでにやってる活動が与件としてありますので、おっしゃる通り、埋めた状態で「この技術を使ってなにができるだろうか」などと議論していく、すでにあるものを前提として考えていくのも良いかと思います。

ただ、一方で、(これはわれわれの応用講座のなかで扱うんですが)いまあるものを前提とすると、改善するにしても、発想がめちゃくちゃ狭くなっちゃうんですね。多くの技術系企業が「いま持ってる技術を前提に新規事業を考える」提案をさせているんですが、それでは視野が狭くなってしまいます。その視野を広げるためのアプローチが、シナリオプランニングだったりバックキャストという考え方だったりするんですが、それらを組み合わせながら、ケースバイケースで使っていきます。

「新規事業」なのに、既存のビジネスモデルに引っ張られてしまいます…

「現状のビジネスモデル・キャンバス(BMC)から未来のビジネスモデルを考えていくときに、現状に引っ張られます。克服の方法のヒントを教えてください」

そうですね。当然そうなりますよね。快活CLUBってご存知ですか。漫画喫茶というか、ネットカフェというか。あの快活CLUBはAOKIが経営しているんですよね。

いまから考えれば、「コロナが始まってみんながスーツを着なくなって、場所も空いてるし、いいところにお店もあるからちょっとネットカフェやろうか」ということなんだな、と後付けでは考えられるんですが、ふつうに考えると、あれは「飛び地」なんですよね。

つねに「飛び地は危ない」とか「飛び地はまずい」という議論は当然あって、飛び地だとどうしても提案が通らないので、仕方なく既存の現状から考えていくと、現状に引っ張られてしまって、はみ出せない、新しいことを考えられないということになるんですよね。

実はその飛び方が重要で、AOKIの例で言えば(これまた若干後付けにはなるんですが)彼らにはやっぱりサラリーマンについてインサイトがあったんです。

ネットカフェは、サラリーマンだけが対象ではないんですが、サラリーマンが働く場所、個室で作業したい、とか、オンラインミーティングしたい、とか、そういうニーズ、動態をよく知っている身近な顧客としてあって、顧客は変えずに、顧客の新たな悩みごとを解決しようとした、と見ることができます。

つまり、軸足は「顧客」に残しつつ、ほかは飛んだ。半分飛び地で半分軸足を残していたわけです。

その、半分軸足が残っていることを、経営陣には強調するといいと思うんです。「お客さんは変えていません」とか「同じチャネルが使えます」とか。そんな感じで、片足は飛び、片足(軸足)は残す、という、そんな飛び地の克服をしていく。逆に言うと、片足は自由にしていいという発想でアイデアを考えていくと、克服できるんじゃないでしょうか。

というところで時間になりました。今日はみなさんお忙しいなかありがとうございました。また来年も違うテーマでやります。何度参加いただいても無料です。ぜひまたご参加いただけたらと思います。ありがとうございました。


講座後のアンケートから、受講いただいた方の声をいくつかご紹介します。

セミナーはいかがでしたか?

  • ビジネスモデルキャンバスへの興味を強くすることができました。導入部としてとても良かったと思います。グループワークも楽しかったです。

  • BMCの実践的な使用のイメージが掴めた

  • ビジネスモデルキャンパスを実際に書いてみることで、価値の理解が深まった

  • 初めての方とのセッション刺激的でした。

  • ビジネスモデルキャンパスの活用面が多いことを確認できた。

  • 講師の説明が大変分かりやすかったです。

  • 新規事業を考える上での考え方などかなり刺激になった

  • 当初の期待通りビジネスモデルキャンパスについて知ることができた

このセミナーを周りの方にどんなふうに勧めますか?

  • 自分のアイデアを言語化する方法としてお勧めします。

  • とても気軽にビジネスモデルキャンバスの入り口に立てるし、他業種交流もできるから参加してみると面白いよ。

  • マーケティングをやるのなら、必須のフレームワークです

  • ビジネスモデルキャンバスの価値を知ることができますよ

  • 戦略の整理、説得のための手段の一つが学べる機会だよ

  • 他の会社でも導入が増えている。今やっとかないと時代に遅れる。

  • いろんな人との共通認識が持てるコミュニケーションツールを分かりやすく学べるセミナー

  • 本だけではわからない点を理解できる。

  • BMCは使えないという人たちが多いが、正しく使えば経営戦略、新規事業創出といった課題解決に役立つのだけれども一緒に作ってみない?

(受講後アンケートより原文ママ)


次回は、1/22(水)19:30〜21:00 オンラインにて開催します。

BMCに関する質問に答えています ↓

(文責 片岡峰子)

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