社団法人のキックオフと人生の円環
名古屋商科大学ビジネススクールの事業構想ネットワークというグループから、一般社団法人が生まれた。その名も、ノット・ア・ロット。ノットは、結ぶという意味のKnotで、たくさんの人と地域を結び、地域活性化に取り組んでいく事業を行っていく。
第一弾となるプロジェクトがすでに進んでおり、来年の3月に北海道の事業者を対象に、ビジネススクールの学生によるビジネスコンテストを行うことになっている。地元の信用金庫と協力しながら、地に足のついた取り組みを進めていく。コンテストでは、地元の事業者への提案を行いながら、ただ学生からの提案で終わるのではなく、社団法人のほうで継続的な取り組みを進めていくというスキームだ。
メンバーは会社社長、大手メーカーやコンサルティング会社、財団など勤務先も多様で、多彩なメンバーが揃っている。お互いに補完的なスキルをもっているチームで、キックオフの食事でも長年、一緒にやってきたかのような雰囲気だった。9月の札幌合宿が初顔合わせだったと思えないようなチームワークが生まれている。
昔から、プロボノ(pro bono)という活動の仕方が注目されてきた。これは、ラテン語の「pro bono publico(公益のために)」に由来してできた言葉で、専門家が無償でスキルを提供しながら行う活動を意味している。古くは、古代ローマにおいて法律や行政に関わる人が、公共のために無償で活動していたと言われ、特に弁護士が社会的弱者や貧困層に対して法的支援を無償で行い、そのことが社会的名誉とされた。特に有名なのがキケロで、ストア派の哲学者としても活躍した。ストア派は徳の実践を実践することによって幸福につながるという思想だが、まさにプロボノの根底をなすものだと言える。
現代においても、まずは法曹会においてプロボノが実践されてきた。テレビドラマの『SUITS』を見た方であればわかると思うが、マイクがプロボノ案件に取り組む場面がある。日本においては、2011年の東日本大震災を契機に、法律家だけでなくさまざまな分野のプロフェッショナル―ITやデザイナー、コンサルタントなど―が取り組み始めた。
ノット・ア・ロットは、そうしたプロボノ的な取り組みの結節点となるプラットフォームでありつつ、しかし同時にそれを、経済的にも持続可能なものにしていく必要があるという問題意識を持っている。2011年の震災のときも、結局、プロボノという関わりは一過性のものに終わってしまいがちで、粘り強い取り組みにはつながりにくかったように感じている。無償というのはもちろんすばらしいことではあるが、一方で責任を負わせにくい。責任ある取り組みということでいえば、やはり経済を回しながらの活動が必要だろう。
個人的に、阪神・淡路大震災で何もできなかった後悔を、2011年の東日本大震災では被災地にはいって支援をし、しかしその活動も持続させられなかった反省を、今に引きずっている。ノット・ア・ロットは、監事としての関わりではあるが、そうした何度目かの機会であり、何度も巡ってくる自分自身の課題に、またしっかりと向き合いたいと思っている。私にとってのノットは、なんども繰り返される円環のイメージなのだ。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師