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自責でも/だから、力強く生きる
先の記事の関連で、もう一つ書いてみよう。
すべて自責で生きていたらたいへんだ、身が持たない、という反応があったが、まったくそのとおりだ。先の記事でも書いたが、自分の思い通りにいかない子どもの安全は、もっとも気を使うもののひとつだ。
自分の子どもがあるとき、「自転車で車にひかれても、車のほうに責任があるんだよね」と言ったので、「ばか! どちらに責任があるとかじゃなく、自分のみを守れ。死んだら、どうするんだ」と一喝した。そういうレベルの責任を得意げに語るやつらは、やばい。だから、「直進する車が右折する車にぶつかると、ちょうど交差点で待っている人の群れにつっこんでくるから、かならず信号の柱の陰で待つように」というレベルで、教育する必要がある。車を止める柱がなく、子どもたちが犠牲になった滋賀県の交通事故は、本当に(親として)痛ましい気持ちになった。
聞いた話ではあるが、ある非常にロジカルな思考をする教員が、「工事現場の下なんか、絶対に歩かない。物が落ちてきて死ぬかもしれない。経営者とはそういうリスクも回避するものだ」と言ったそうだ。まったく同感だ。私は飛行機に乗るときに、かならず後ろの席を取るようにしているが、それは墜落したときの死亡率が低いからだ。
もし日本の治安が極度に悪ければ、銃声の鳴り止まない市街で、次の曲がり角で右に曲がるか、左に曲がるかだけでも、ヒリヒリする緊張感があるだろう。そのとき頼れるのは自分の直感だけであり、生き延びるためのセンサーの感度は相当なものだろう。道を歩いていてそうした危険にアンテナを張らなくてよい日本の治安には、本当に感謝したい。一方で、個人的には、危険地域を歩いているときの緊張感をもって、日々暮らしていたいと思っている。飛行機の座席同様、リスクを回避できる可能性は、いつでもある。
こう書いていくと、いよいよたいへんな生活に思えるかもしれない。しかし実は、それほどでもない。このヒリヒリする自責思考とセットにしてもつべき、もうひとつのマインドセットがあるのだ。それは、起きてしまったことには意味がある、というものだ。
たとえば、仕事がうまくいかないとする。自責の人は、もちろん「この結果は自分が引き受けなければならない」と考える。しかしそれと同時に、「仕事がうまくいかないことの意味はなんだろうか」と問うことが可能になる。他責の人にはこれができない。だってそれは他人のせいであり、組織のせいであり、マーケットのせいなのだから。人生の困難を自分で引き受けた人だけが、その困難の意味を問うことができるのだ。そしてそれは、とても豊かなことなのだ。
ドイツのユダヤ人強制収容所での究極の困難を描いた『夜と霧』では、収容所から出られるに違いないと希望を持った人から、亡くなっていく様子が描かえる。「クリスマスには連合軍がやってきて、我々は開放されるらしい」という根拠のない希望を信じた人は、その希望が裏切られるたびに、その人は弱っていったのだという。
一方、最後まで生き延びた人は、収容所での苦役には意味があるのだと考えた人たちだった。ある人は、自分が苦労することで家族がその分、平和に暮らせるのだという信念をもっていた。実際には彼の家族は、その時点でナチスに殺されていたのだが、そのフィクションは、彼を最後まで生き延びさせる力を持っていた。
根拠のない希望も、苦役に意味があるという話も、フィクションである。しかし、なぜ後者のフィクションには、そのような人を生かす力があったのだろうか。ここには、大きなコペルニクス的転回がある。フランクルの言葉を引こう。
ここで必要なのは、生きる意味についての問いを百八十度方向転換することだ。わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ
生きることがわたしたちからなにを期待しているか。この問いができるのは、すべての結果責任を引き受けた人だけができるのである。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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小山龍介のビジネスモデルノート
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