オンラインとオフラインを融合するHYBRID INNOVATIONの実践
FORTH Innovation Method(以下、「FORTH」)を開発したハイスが3年ぶりに日本に来日し、6日間のワークショップを2回実施した。私自身はB日程に参加し、2015年に本の序文を書いて以来、7年経ってようやくFORTHの公認ファシリテーターに認定されることになった。
FORTH Innovation Methodとは
FORTHとは、イノベーションをおこすための標準的プロセスを設計したもので、FULL STEAM AHEAD(全速前進でスタート!)、OBSERVE & LEARN(観察と学び)、RAISE IDEAS(アイデアを出す)、TEST IDEAS(アイデアをテストする)、HOMECOMING(帰還)の5つのステップから構成されている。
各プロセスは、2〜5個のワークショップで構成され、手順を踏んでいくとちゃんとしたアウトプットがでるように周到に設計されている。最後には、ビジネスケースと呼ばれる新規事業、イノベーションの事業案が完成するのだが、FORTHを使った場合、実際に実行される有効な事業案をより多く生み出すことができる。調査によれば、通常のイノベーション手法の二倍の事業が生み出されたのだという。
オンラインツールMIROの導入
今回のFORTHの特徴は、ハイブリッドなやり方にあった。従来のリアルのワークショップではなく、またコロナ禍において行われていたオンラインだけのワークショップでもなく、その両方を組み合わせた特別プログラムだったのだ。
オンラインツールのMIROを活用し、プロジェクトの進捗が常にオンライン上で閲覧、編集できる状態で準備されている。そのため、プロジェクトが今どこまで進んでいて、どのような状態にあるのか、いつでも確認することができる。また、たとえば国際的なプロジェクトでさまざまな時間帯に住む参加者が関わっていても、時差を気にせずにコラボレーションが可能になる。
FORTHはもともと、プロセスが構造化されていて、そのプロセスを踏めばアウトプットがでるような仕組みが用意されている。そのため、MIROに事前にフォーマットを準備することができる。こうした運用に非常に相性がいい。ブラウザ上でプロジェクトが進んでいく様子を俯瞰してみるのは、なかなか壮観な眺めだった。
HYBRID INNOVATIONの実践
もしMIROだけで進めるのであれば、オンラインでの実施で問題はない。しかし、今回はあくまでオンラインとオフラインを両方融合したHYBRID INNOVATIONである。
ワークショップでは、メンバー全員が会場にPCを持ち込み、IDEATIONのプロセスでは黙々と、アイデアを打ち込んでいった。会場では動きがほとんどないものの、オンライン上では各自のマウスが忙しく動いている。まるでマトリックスの世界のような、リアルがオンラインに移動し、またオンラインのアウトプットがリアルに出現するようなインパクトがあった。
こうしたやり方について、実は運営側ではかなりの議論があった。せっかくリアルの場でできるのだから、紙のポストイットでやったほうがいいのではないか、そのほうがイノベーションプロセスの熱量を共有できるのではないか。リアルのメリットはさまざまにある。
しかし今回、ハイスはこのハイブリッドの方法にこだわった。6日間のワークショップを終えた今、その意味はよく理解できる。オフラインでメンバーの存在感を感じながら、同時にそのアウトプットはオンライン上に時間と場所を超えて共有されていく。リアルな場所に閉じない、開かれたプロセスへの変貌を遂げるのである。
イノベーションの冒険は今や、オンライン上の大海が舞台となっているのだ。
小山龍介
小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会 代表理事
京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、米国MBAを取得。松竹株式会社にて歌舞伎をテーマにした新規事業立ち上げに従事。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。メンバーの自発性を引き出す、確度の高いイノベーションプロセスに定評がある。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』で紹介したビジネスモデル・キャンバスは、多くの企業で新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。
2015年より名古屋商科大学ビジネススクール准教授。2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、2020年からは亀岡市で芸術を使った地域活性化に取り組む一般社団法人きりぶえの立ち上げにも携わるなど、アートとビジネスの境界領域での実践を進めている。
著書に『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』などのハックシリーズ。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』など。著書20冊、累計50万部を超える。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?