「ゴチになります」の上沼恵美子のすごさ
冒頭にひとつ謝罪をしなければならない。前回、娘のインフルによるせん妄について、「頭の中でパーティが行われているらしくて、それなら羨ましい」という話をしたが、実際には楽しいパーティではなく、自分だけハブられたただうるさいだけのパーティが夜通し行われていたらしい。誤解をして申し訳なかった。個人的に、電気グルーヴの「モノノケダンス」くらいをイメージしていて、想像の中で勝手にテクノが流れていた。妖怪のBon Danceである。
さて、年末年始になると、普段は見ないテレビ番組を見ることになって、これはこれで新鮮な気分になる。普段のテレビは、私が広告代理店にいた20年以上に比べてだが、予算も少なくなって再放送や再編集が多くて、正直見ていて悲しい気分になるが、年末年始になると流石にしっかりと予算がつく。その中でも、普段はまったく見なかったグルメチキンレース『ゴチになります!』の大晦日特番が、なかなかおもしろい。
高級レストランのメニューを注文して、その値段を当てていくゲームなのだが、そのフォーマットがしっかりとあるからこそ、そこに付随するトーク部分が安心して見られる。たとえば、TKモノマネ芸人の登場シーンは明らかに滑ったけれども、それも本線の食に戻ればリセットされる。フォーマット番組の強さを改めて感じた。
そうした中でも、上沼恵美子のトークは本当に衰えていなくてびっくりする。関西に比べると上沼恵美子の存在感は当然、関東では低くなる。だからこそ、こうした番組で出てきたときのインパクトも強くなる。ベテラン芸人として当たり前なのだが、自分のターンに来たときの時間の使い方が上手い。ぐっと引き込んで、緩急をつけるから、つい話に引き込まれてしまう。佐藤健がゴキブリを苦手という流れから、上沼恵美子のゴキブリ漫談が始まったあたりは、すごいなと思った。「あのツヤはなんであるの?」という言い方だけで、しっかりと笑いが起こる。
時間の使い方といえば、テレビ番組で落合博満が、大谷翔平のバッティングについて、「ここを直せばもっと良くなるとしたらどこ?」と武井壮に聞かれたときに(武井壮は本当に聞きたがっていた)、「誰もわからない言い方をするけどね」と前置きしたうえで「時間の使い方が下手」と言ったのだった。時間の使い方はお笑いだけでなく、スポーツにも関連するし、当たり前だが、音楽や他の身体性を伴うものには、常に関連してくる。
最近、ChatGPTの月額3万円コースに登録して、そのプロっぽいアウトプットを活用しているが、問題は時間がかかるところだ。アウトプットまで1,2分かかる月額3万円のPro Modeでは、打てば響くというあの即興的なやり取りができない。身体的リズムに合わせることを想定していないAIは、まだまだだなと思う瞬間だ。人の会話は常に、その場のテンポに追われているし、乗せられてもいる。
私自身も最近、加齢とともに頭の回転速度も遅くなってきているので、「最速」なんてことではなく、もう少し緩急をつけたベテラン投手のような思考術を身につけたいとも思っている。相変わらずネット上では、即座の「論破」が流行って入るが、上沼恵美子はそういう論破の文脈とはまったく違う時間に生きている。思考の上沼化、もしくはChatGPTの上沼化、あるいは上沼おしゃべりGPTの誕生か、いずれも人類の進歩にとって欠かせないものであることは間違いない。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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