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学会誌の歴史記録としての役割

今日は、日本ビジネスモデル学会の新しい体制についての会議と、慰労会が行われた。正式な発表があって改めてここでもお伝えしたいと思うが、来年度から大きな変化がある。その変化の主要な役割を担うことになりそうで、少しずつそのことについて、言葉にしていこうと思う。

ここ数年、編集能力を買われて学会誌である「BMAジャーナル」の編集長を務めているが、この学会誌の発展が、私個人としての大きな役割になるだろうと思っている。学会誌の発行は、アカデミックな学会にとってはもっとも重要なもののひとつで、研究成果の発表の場であり、また査読を通じた学術的信頼性を担保するものであり、またそれをしっかりと後世に残していく役割を持つものだ。その中核的な役割が、査読付き論文の掲載にあることは当然のことである。

しかし、査読付きの論文に仕上げるためには、それなりに時間もかかる。今起こっていることについての論文を待っていると、数年のタイムラグはどうしても生まれてしまう。一方で、昨今のコロナ禍におけるビジネスモデルの大きな変化や、いわゆる生成AIの登場によるビジネスモデルへのインパクトなど、今この瞬間に起こっていることを記録することの重要性も無視できない。今起こっていることに応答し、それを学会誌に残すことは、後世の研究資料としても、価値のあるものになるのではないかと思う。特に、ビジネスモデルという分野は、経済界での実践があって初めて成り立つものであり、その実践に対する記録の重要性は、もっと強調されてしかるべきだと思う。

そうした問題意識を持っていたときに、たまたま応用物理学会のウェブサイトで、『応用物理』オーラルヒストリーというページを見つけた。従来、歴史研究や民俗学、生活史などの分野で活用されてきた手法が、応用物理の世界でも活用されているということに、ちょっとした驚きを覚えた。こうした理系分野であってもオーラルヒストリーから「偉大な発明や発見の動機,背景,ブレイクスルーの糸口,本当に苦心した点など,公式文献だけからは得られない当事者のみが知る貴重な一次資料が得られる」のである。

『応用物理』オーラルヒストリー
https://www.jsap.or.jp/oralhistory

これをビジネスモデルの分野に応用できないだろうか、というのが私の着想である。すでに、「ポップアップセッション」と名付けた対談シリーズを記事化して掲載するプロジェクトは、個人的に進めていたが、これをより一層強力に推し進めていきたい。そこでは、アカデミック分野よりむしろ、ビジネスの生々しい現場に直面しているビジネスパーソンの、この場所、この時代だからこそ得られることばを残していくことが重要なのではないかと思うのだ。そこから、研究の糸口が見つかる可能性も大いにあるだろう。

このオーラルヒストリーの記録プロセスは、ビジネスパーソンがアカデミックな世界に飛び込む入口としても機能するだろう。改めて自身の取り組んでいるプロジェクトについて言葉にすることで、いい意味で、現場からの適切な距離を取って振り返ることができるに違いない。個別具体の体験について俯瞰的に振り返るというプロセスは、アカデミアの基本的態度のひとつでもある。

今日の会議では、日本ビジネスモデル学会が、アカデミックとビジネスとの架け橋になるコミュニティであるという確認がされた。そのなかで、学会誌がビジネスの側に開いていくためには、査読付き論文の掲載という役割と同時に、ビジネスに関するオーラルヒストリーの掲載という役割を果たしていくことが重要ではないかと思う。

もちろんここには、企業の機密事項をどう扱うかなどの課題もあるが、まずはその着想について今日は記録に残しておきたい。

小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師

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