野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(4)
野上英文x小山龍介「コンサルに活かす戦略的ビジネス文章ークライアントを説得しプロジェクトを前進させる文章力」ーBMIAリスキリング・セッション(3)の続きです
だれに、なにを期待する?
野上 自己PR文章フィードバックに戻ります[図15]。
小山 ビジネス文章として簡潔に書かれている感じですね。
野上 そうなんです。かなりお上手で、おそらく、日頃みなさんはこういう文章を書かれてるでしょうし、違和感があるものではないですよね。
ただ、これはいったいだれに向けて書いたんでしょうか。
小山 たしかにそう言われると……、どうなんでしょうね。もしかしたら、社内で「なにをやってる部署なんですか?」みたいに聞かれたときに答えるような……。書き方も簡潔ですし、社外というより、社内コミュニケーションなのかな。
野上 そうですね。おそらくあまり意識されずに、ごくごく一般的に書かれたんじゃないかなと思うんですけれども、仮に株主に向けて書くとしたら、こうなるでしょうか。
社内でも同僚なのか、経営幹部なのか。もしくはお客様に向けて書くなら、既存の取引先、もしくは新規のお客様、はたまた就活生? 小学生向けなら同じ文章になりますか? おそらく違うはずですよね。
そこらへんがちょっと曖昧なままで、とりあえずオールマイティーでいけるだろうみたいな感じで書かれてると思うんです。小学生は読まないですよね。就活生も、ちょっと堅い会社だなと思うかもしれないです。これ自体が悪いってことではないんですけども、刺さらない。非常に淡白に映る。
いったい、だれに向けて書くのかということを意識していただきたいということで、これを3A分析というフレームでご提示しています。
三つのA、ひとつは、オーディエンス(audience)。読み手、聴衆をちゃんと意識してください。だれなのか、具体的にっていうことです。それが変わると文章もまったく変わってくる。
今日私がお話ししてますのも、聴衆であるみなさんが平日の夜七時からリスキリングに燃える人たちなので、僕もそれに合わせたテンションでやっています。小学生向けだったら、小学生に合わせて話し方を変えます。
たぶん、みなさんも目の前に人がいると意識するんだけど、テキストになった途端になんとなく書いちゃう。じゃなくて、いままさに対峙している方々に向けて話すんだっていうように、文章を書くときもだれに向けて書くのかっていうのをちゃんと頭に置いてください。これが、3A分析のオーディエンス、ひとつめです。
たくさんいらない
野上 次の例文にいきますね。
なにか結論があるということじゃなくて、なるほどな、と。PRも入ってますし、全体的な社会課題についても言及されてます。
小山 ちょっと自慢げですね(笑)。
野上 ここで私から伝えたいのは、読んだ人にどんな行動を期待しているのか、これを読んでいったい何をしてほしいのかをどこまで意識してますか、ということです。
脱炭素への理解を高めたいのか、コンサルの提案をしたいのか。三つの視点を持つことをPRしたいのか。もしくは仕事のやりがいを伝えたいのか、新規客を取りたいのか、リピート率を高めたいのか。目的があると思うんです[図17 右]。
小山 やっぱりこれは、単に自慢じゃないですか(笑)[編集注:書き手が知り合いだということがわかったので、敢えて辛辣なことを言ってます。]
でも、たしかにそうですね。ちょっと焦点がぼける感じですかね。
野上 先ほどの話と連動しています。3AのふたつめのAはアクション(Action)で、いったいどういう行動を期待するんですかということです。
だれに(オーディエンス(audience))、どんな行動を期待するのか(アクション(Action))。これをちゃんと意識して書きましょう。
小山 単にビジネス上だけでなく、社会的な課題だけでもなくて、政策もきちっと考えて行動していかないと実現できませんよというところにフォーカスすれば、文章は自ずとそこに向かっていくっていう感じなんですよね。
野上 はい。決して、言いたいことを言うな、書きたいことを書くなっていうことではなくて、受け手からすると、なんというか、肉も魚も野菜も全部ドカッて出されてる感じ、イメージ伝わりますかね。朝食と昼食と夕食をいっぺんに出さないということです。
いろいろ言いたいこと、あるじゃないですか。書きたいことはたくさんある。でも、冒頭から申し上げてますように、読み手の立場に立つと、そんなにいらないんですよ、たくさんはいらない。逆に伝わらないので損しちゃう。
読み手、期待行動、それにふさわしいトーン
野上 次いきますね[図18]。いいですよね、なんかね。
小山 お人柄が見えますよね。
野上 はい。もうひとついきましょうか。同じ課題ですよ[図19]。
野上 同じテーマでも、ぜんぜん違いますね。同じ課題でこれだけトーンが違うという事例です。
ある企業の文章術のセミナーをさせていただいた際に、自分の事業を紹介してください、どんな部署ですかっていうのを問うたときに、こういうことを書いて来た人もいました。
これどうですかね。そのときも、みなさんぜんぜん笑ってなかったんですよ。
小山 内輪でウケないと、ちょっともう壊滅的……
野上 ですよね。けっこうお堅い仕事なんですけどね。ちょっと場違いなものを書いちゃった人がいるんですよね。
これが3Aの三つめ。どんなトーンで、空気感、文脈で書きましたかっていうのも、チューンナップしてほしいです。いま、私がいきなりラップ調で喋ったりしたらどうですか? 赤ちゃん言葉で喋ったらどうでしょう。中身がよくても、たぶん、伝わらないですよね。
三つめのAは、アトモスフィア(atmosphere)。どんな空気感とかトーンで書きますかということです。むずかしいんですけど、実は先のふたつ(オーディエンス、アクション)を定めると、おそらく導き出せる。だれにどんな行動を促したいのか。たとえばお詫びするときって自然と神妙な文章になるじゃないすか。それと極めて近い、シンプルなロジックです。謝罪だとかの極端なシーンだと、みなさん、意識すると思うんです。だけど、そうじゃない日常的なやり取りでは、なんとなく書いちゃうので、なんとなくしか伝わりません。
野上 頭でわかってるんだけどなかなかできないので、フレームワークにしてみました[図20]。みなさん、私と一緒で、フレームワーク大好き人間じゃないかなと思います。ちょっと意識されると、だいぶ変わってくるんじゃないですか。
小山 一応念のため言っておくと、さっきのが悪いということではなくて、適した空気を読んで、そこにあったものを意識的に選ぶっていうことですね。
野上 そうです。意識的にやると、人間ってすごく優秀なので、ちゃんと空気読めるんですよね。
そこを少し意識してるかどうかだけの差なので、意識していただければだいぶ書く文章も締まってくるし、ちゃんと届けたい相手に届いて、結果が返ってくる確率が高まると思います。
小山 空気を読むってかなり高等技術な部分ありますよね。なんていうか、うまい人は緊張する場面でもちょっとジョークを言って場を和ませたりとかできますけど、文章だと、ちょっと外すと全然そういう状況にならない。適切な文章での空気の読み方とかあるんですか。
野上 そうですね。心得のようになってしまうんですけども、ジコチューにならないことに尽きます。繰り返しのメッセージなんですけども、読み手の立場に立てれば、どういう形式がいいのか、どういう書き方がいいのか、定まってきますよね。
小山 たとえばこれ[図18] だとどうなりますかね。
野上 はい。人柄は伝わると思いますね。ただなにを狙ってるのかわかんないです。なにか得たい場合だったらどうですかね。
小山 なるほど、はい。
野上 この三つ組み合わせなので。これ[図19]もそうですよね。
小山 これは、たしかに、なんていうんですか、この人はこの人で変わった、こだわりのある人で……。なにかキャラクターが確立されてる感じはしますね。
野上 コミュニケーションで、みなさんが受け手や読み手の立場で、いろんな形式でいろんなパターンでいろんなトーンで出されたときに、なんかちょっとこれ思ってたのと違う、みたいな印象を受ける瞬間って、たぶんあると思うんです。そういうのを減らすっていうことです。
文章は読み手へのプレゼント
小山 最初の文章[図18]を読んで思ったのが、読み手に対するプレゼントがないって感じはしますね。
自分の内省、こうやってすごく人生の姿勢が変わりましたっていうのは、朗らかに書かれてるので人柄は伝わってくるけれども、読み手に対するプラスアルファの情報を、もうちょっと意識するともしかしたら違う書き方になるかなと。そういう意味で良くも悪くも自己中というか、自分のことが書かれているっていう感じですかね。
野上 自分に向けて書いている日記ならいいんですけども、だれかに向けて書くっていう場合にどうなのかということですね。読んだ後にどうしてほしいのか。読んで放置でいいなら別ですけど、おそらく仕事上は違いますよね。読んでもらってなにかしてもらいたいということだと思うので、そこを意識してくださいね、ということです。
これもフレームワークです[図21]。ひとつめ、ストラテジーというとちょっと堅いんですけども、頭のなかの整理です。
小山 そういう意味で、さきほどの例文を見てみると、質問がしづらいかもしれないですね。そのあと話が盛り上がるかっていうと、伝えたいことがぼやけてるのでそうでもなさそう。
やっぱりこの「アクション」ですよね。どういうことをしてほしいのか。自己紹介は基本的には自分に関心を持ってもらって、質問されて、そこに答えていくというやりとりで深まっていくとすると、フックというか、きっかけがない、とりつく島がない感じですね。
野上 そうですね。とはいえ、今回かなりオープンクエスチョンで「自己PRしてください」と伝えたので、そこまで意識されなかったんだと思います。若干意地悪な出題の仕方でした。
今日の話を、メール書くときにでもちょっと意識されるとだいぶ違ってくると思います。
このフレームは大きく分けて六つあるんですけども[図21]、どこが刺さるかは本当に人それぞれです。3A分析がめちゃくちゃ良かったっていう方もいらっしゃれば、仮見出しが良かったっていう人もいる。なので、もしみなさんのなかでこの意識が足りてないとか、これちょっとやったほうが少し良くなりそうということがあれば、採用いただければと思います。
小山 オンラインチャットで、質問が来ています。「新聞のように不特定多数の方が読むものの場合、読み手をどれぐらい細かく設定されるんでしょうか?」
たしかに読み手、聴衆、だれに、がぼやっとしてると、新聞とはいえ……。
野上 マスメディアの場合は、ビジネス上のやり取りとは違って、一方通行なんですよ。情報を流して、受け取る人もいれば受け取らない人もいるっていう発信の仕方なので、本にも書いてるんですけど、対象に入れてないです。
だけどみなさんのビジネス上のやり取りは、時間を使って文章を書いたり、届けたりするときって、かならずなにか目的があるはずで、届ける相手も決まっていますよね。いわゆる発信術については、後半にお話ししますね。
(5)に続く
野上英文
JobPicks編集長/ジャーナリスト
2003年から朝日新聞社で大阪社会部、経済部、国際報道部、ハーバード大学客員研究員、ジャカルタ支局長など20年近く記者・編集者を務めた。40歳を機にマサチューセッツ工科大(MIT)経営大学院に私費留学してMBA修了。2023年からNewsPicks for Businessに参画し、同4月にJobPicks編集長就任。NewsPicks+d統括編集者も兼務してメディアの事業戦略と成長を担う。NewsPicksトピックで連載コラムの執筆、News Connectパーソナリティなどを務めるほか、ビジネス文章術やZ世代の働き方などで講演多数。大阪地検特捜部による証拠改ざん事件の調査報道で新聞協会賞受賞。著書に『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた 戦略的ビジネス文章術』(BOW BOOKS)、共著に『ルポ タックスヘイブン』『ルポ 橋下徹』『プロメテウスの罠4』『証拠改竄』ほか。
小山龍介
一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会(BMIA)代表理事
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役 CEO, Bloom Concept, Inc.
名古屋商科大学大学院ビジネススクール 准教授 Associate Professor, NUCB Business School
FORTHイノベーション・メソッド公認ファシリテーター
京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後は、大手企業のキャンペーンサイトを統括、2006年からは松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに新規事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。インプロヴィゼーション(即興劇)と組み合わせたコンセプト開発メソッドの普及にも取り組んでいる。
ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。