モデル把握能力がビジネスを動かす
「理事無礙法界」の話を書いたら、ビジネスモデルと関係がないのではないか、ビジネスモデルイノベーション協会の記事として妥当なのか、という疑義が持ち上がったので、すこしビジネスモデルに紐づけてみたいと思う。
ビジネスモデルというのは、その言葉通り、モデルである。モデルというのは、すでに象徴性をはらんでいる。個々に違うものであっても、同じモデルである、と考える背景には、象徴性の認識がある。ギターはさまざまなギタリストのシグニチャーモデルが発売されるが、それはモデルであって実物ではない。モデルの象徴性はいわずもがな、なのである。
ビジネスモデルも、SPAモデルといえば、ユニクロが有名であるが、ほかにも、ZARAやH&Mなど、同じビジネスモデルを採用している。商品企画から製造、販売までを自社で統合して管理するSPAモデルは、垂直統合によりサプライチェーンを効率化し、適切な在庫管理ができるし、企画から製造、販売までのリードタイムを短くできる。ZARAは2週間で新しいデザインを市場に出せるとも言われている。結果、高い収益を確保できる。
このモデルはアパレルに限らない。家電領域でも、Appleは直販に力を入れ、オンラインショップも含めSPA的なモデルに移行している。IKEAは家具におけるSPAだし、ディーラー網を持たずに直販するテスラもSPAと言えるだろう。コンビニのプライベートブランド展開は、SPAへのトランスフォーメーションと捉えることができるだろう。アパレル業界から始まったSPAモデルは、その象徴性によって、他の業界に展開できたのである。
この他の業界への反復と、月の満ち欠けをみて一ヶ月を繰り返し数える数字感覚は、同じホモ・サピエンスの認知革命に支えられている。課を束ねて部を作り、部を束ねて本部とし、その本部を束ねて会社とし、その会社を束ねてグループを構成し、数十万人が働くという現代のコングロマリットも、この反復を捉える認知を獲得した結果だ。
ビジネスモデルイノベーション協会が取り組んでいるのは、ビジネスモデルが人を動かしているという現実に対する探求である。この文脈においては、ビジネスモデルは単なるシステムではなく、神話である。トヨタ生産方式はひとつの信仰である。ビジネスモデルの転換が難しいのは、異なる宗教体系への改宗だからだ。
ものづくり第一を信じてきた従業員が、急に「これからはモノではなくコトだ」などと言われて、急に行動を変えられるだろうか。「品質は悪くても、まずはβ版が市場で受け入れられるか、試してみるんですよ」とヘラヘラ笑うIT野郎は、憎き異教徒であったはずだ。しかしそのとき、ふとそうした異端からこそ資本主義の精神が立ち上がったことを思い出すのかもしれない。
マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で語っていたのは、宗教的価値観がいかに経済活動を動かしてきたか、そしてその価値観の転換が新しい経済システムの基盤を形作ったかということだ。資本主義が立ち上がった背景には、禁欲的なプロテスタントの倫理があった。浪費を避け、天職(Beruf)たる労働に励むことが神への奉仕であると信じる精神は、資本の蓄積を可能にし、産業革命以降の世界を動かすエンジンとなった。そして、現代のビジネスモデルも一種の「倫理体系」や「神話」として機能しているのである。
なので、中沢新一を読んで喜んでいても、許してほしい。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
日本ビジネスモデル学会 BMAジャーナル編集長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
京都芸術大学 非常勤講師
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