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ウポポイの民族共生象徴としての意義
念願のウポポイを訪問したのは、今回の札幌ツアーの最終日だった。この日も快晴で、雲一つないというような表現がぴったり来るような天気だった。途中、支笏湖などに寄りつつ、午後には民族共生象徴空間ウポポイに到着した。ウポポイとはおおぜいで歌うことを意味するアイヌ語だ。
このウポポイは、「我が国の貴重な文化でありながら存立の危機にあるアイヌ文化の復興・創造等の拠点として、また、将来に向けて先住民族の尊厳を尊重し、差別のない多様で豊かな文化を持つ活力ある社会を築いていくための象徴」(ウポポイHPより)として設置された、国立アイヌ民族博物館を含む15haの広大な施設だ。
アイヌ民族は、歴史的に長く弾圧を受け、江戸時代には松前藩のひどい対応に対して、1669年にシャクシャインの戦い(リーダーのシャクシャインが騙し討ちで殺された)、1789年にクナシリ・メナシの戦い(鎮圧後、アイヌ37人が処刑された)というように、抵抗も起こった。その後、同化政策によって、その文化や存在が消されようとした。
また、アイヌへの差別を象徴するできごととして、「学術人類館」事件がある。1903年の第5回内国勧業博覧会の民間パビリオンで、アイヌ民族を含めた先住民族が、「展示」されたのである。人間を見世物として扱うこの事件は、当時でも大きな問題になった。
こうした悲しい歴史をどのように受け止め、どのように表現するのか。ウポポイは、幾重に折り重なった問題と向き合う必要があった。
この記事でまず指摘しておきたいのが、ウポポイではアイヌだけでなく、和人や沖縄、海外にルーツを持つ人たちが働いているということだ。その全員がアイヌのニックネーム(ポンレ)を持っている。さまざまな民族がアイヌ語を学び、アイヌ文化への理解を深めている。
このことだけをもって、この施設がすばらしいというつもりはないが、「民族共生象徴空間」という施設の名称が、単に物理的な空間を指しているのではなく、アイヌ民族とその文化への理解を深めていくこうした行為を含めた、ソフトとしての空間を指していることは、この事実一つとっても明らかだろう。来場者も、展示を見るだけでなく、アイヌの芸能に触れたり、衣装を着たり、伝統工芸を体験することができる。
最後に体験交流ホールで伝統芸能の上演を鑑賞した。そこでの伝統芸能は、私の目から見てということではあるが、ビデオなどで上演されていた実際のものよりも洗練されているように映った。声は響き、リズムは揃い、上演される芸能として質の高いものになっていたように思う。何度も上演し、繰り返し演じていれば、当然このような洗練が進んでいくことになる。
このことをもって、こうした上演はまがいものである、真正性(オーセンティシティ)が疑わしいという指摘もあるだろう。ブーアスティンが「疑似イベント」と呼んで批判した。また、アーリはこうした事態を引き起こす構造として、フーコーの〈まなざし〉の概念を元に「観光のまなざし」の議論を行った。観光客によるまなざしが、地域を翻弄するのである。
しかし、このことは実際にはウポポイは十分に想定していた。それは、「アイヌ文化の復興・創造等の拠点」というウポポイHPでの紹介に端的に現れている。ここでは、アイヌ文化の保存ではなく、復興と、そしてもっと踏み込んで創造までもが目指されている。
ウポポイは、多くの批判にさらされつつも、まさに民族共生象徴空間として、これからの民族共生のありかたを示す可能性を秘めているように思う。
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小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
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