中村健太郎×小山龍介「コンサル脳をつくるー3大基本スキルを身につけて市場価値を最大化する」ーBMIAリスキリング・セッション(1)
【日時】2023年9月28日(木)19:00〜22:00
【会場】ビジョンセンター品川
【登壇者】中村健太郎・小山龍介
小山龍介(以下、小山) 今日は特殊な環境でして、実はオフィスから放送する予定で、無観客オンラインで考えていたんですけれども、オフィスのインターネット環境の諸々ありまして、急きょ会場をとりまして、いま、こちらにはおふたりの観客をお迎えして進めてまいります。オンラインで見ていただいてる方はぜひチャットで質問等いただけたらと思ってます。
まず中村健太郎さんの簡単なご紹介をしたいと思います。
ボストンコンサルティングやアクセンチュア等、コンサルティングファームで活躍されたあと、Jリーグのストラテジーダイレクター、西軽井沢学園理事とスポーツビジネス、教育関係、いろんな領域で活躍をされています。
今日のプレゼンでもご紹介があると思いますが、長らくコンサルタントのトレーニングをされてこられたこともあって、「コンサル脳」をどうやって鍛えていくのか、という書籍『コンサル脳を鍛える』を出版されました。
能力、スキルで報酬を上げる
中村健太郎(以下、中村) みなさん、はじめまして中村でございます。私は二〇年間コンサルティングをやってまして、BCG(ボストンコンサルティング)、アクセンチュアにおりました。後半一〇年間はコンサルタントの育成に携わってました。そのときに疑問に感じたことがいくつかあります。
まず、私自身も含めてコンサルタントって、転職するときに、非常に市場価値が高くなる。昔はBCG出たら、あるいはマッキンゼー出たら、そのブランドで値段が上がると言われてたんです。いまはプロフェッショナルの経営者が増えたり、コンサルティングファームから事業会社またはファンドにいく人が多くなった。いまでも、その市場価値ってぜんぜん落ちてないんです。
端的に言うと、通常の事業会社での五年と、コンサルティング会社にいる五年では、マーケットは違う評価をしているということです。コンサルティングファームでプロジェクトマネージャーまでいくと、次の転職では、一般の事業会社の役員ぐらいの報酬が取れるんです。これは、転職マーケットの事実で、それはなぜなのかと考えると、ブランドとか経験ではなくて、能力、スキルにお金を払っていただいていると思うんです。
コンサルタントが転職先の事業会社でしっかりパフォームしてるので、次の人にも相応のフィーが払われるということで、コンサルタントの経験を持つ、スキルを持つ人の市場価値は、近年どんどん上がっていっている。これが大変興味深いと思ったんです。
市場価値を高めるためのスキルはどこにあるのか。
コンサルタントの能力については、書籍等々が山ほど出てまして、コンサルタントのスキルがこうだとかフレームワークなんだとか、研修自体のプログラムをそのまま本に出しちゃってる方もいます。私は仕事柄そういうのを全部読むんですけど、嘘はなににも書いてない。ノウハウはダダ漏れ状態です。
ただ、コンサルティングファームに入ってる方と入ってない方では、やっぱりスキルのレベルがぜんぜん違う。これが非常に興味深いところです。
私は、MBAの講師とか、トレーニングセッションとか、いくつかやらせていただいていますが、事業会社の役員、部長クラスを次期経営者として育成するプログラムもあります。これは、あんまり強くは言えないんですけど、基本的なビジネススキルが極めて未成熟で、しっかりトレーニングされてないという状況があります。
小山 本にも書かれてますよね。そもそも文章が書けない。
中村 はい。事業会社に三〇年いらした方と、われわれが数年で鍛えるのとではスキルに差がついてしまうので、新しい事業を起こしたい、または既存の事業を大きくトランスフォームしたいときには、もちろんコンサルタントのスキルを頼りたくなる。これは、非常に多く実感したところです。
ただ、ノウハウが外にダダ漏れ状態で、本当に透明に書かれている。なのにファームの人とそうでない人でスキルの差が明白にある。ここになにかエッセンスがあるのかなと思ったんです。おそらく、われわれ自身も気づいてないなにか。
トレーニングの組み立て方や、やり方があるじゃないですか。それが本にも書かれているし、われわれもその内容をままやってるだけです。ただ、ファームは厳しいですけどね。めちゃくちゃ働かされます(笑)。
小山 そこがけっこう重要だったりしますね(笑)。
中村 それでも、ファームにも、できる人とできない人がいるんですよ。
小山 それはおもしろいですね。
学ぶ順番が間違っている
中村 コンサルタントとして「伸びる」「伸びない」は、必ずしも入社時の期待値とは相関しないんです。BCGだと、IQを測ったり、いわゆるケース面接みたいなのをやって、それが満点だったりして、「BCG始まって以来の天才だ」といわれた人が伸びなかったりするんです。かと思えば、採用から一〜二年経って、「採用ミスだったんじゃ」みたいな人が、ギュッとパフォームしたりして……。だから、なにかわれわれも気づいてないノウハウがあるんじゃないかと探索してたんです。
アクセンチュアの後期にいくつかトライアルしたときにわかったのが、「学ぶ順番を間違えてる」ということです。料理にたとえると、器をつくってからじゃないと料理は盛れないのに、料理も器もごちゃまぜに……、粘土もにんじんも一緒に学んでるっていう感じです。器が整ってないのに、そこにいろんな知識を詰め込んでしまっているんですね。
ハイパフォーマーの情報収集の仕方とかスキルのつけ方を見ると、「まず、これをやる。それに対してこれをやる」という感じで、順序が組み立てられていて、まず、手足、足腰をしっかりつくる、それからアプリケーションを設定する、と、自分のなかで体系化してる人がすごく多いんです。それから、いくら情報が目の前にあっても、自分が必要性を感じないと引っかからないので、「まず必要性を高めるんだ」みたいなことをいう人も多いです。このあたりにヒントがあるのかなと思ったんですね。
一丁目一番地は「日本語」
中村 この本(『コンサル脳を鍛える (【BOW BOOKS 015】中央経済社 (2023/2/22)』)を書いたきっかけにもなるんですが、コンサルティングファームのトレーニングでもっともベーシックなのが、スライドライティングです。スライドを書くときにいちばんいいやり方は、われわれパートナー陣がダメ出しをするんです。問答するんですね。「なんでそこにこういう図を入れたの」「なんでこういうメッセージなの」。詰めていくと、書いた人の思考が丸裸になってくるわけです。
スライドライティングのトレーニングをしてわかったのが、良くないスライドを書いた原因の九割以上が、「なにを書いていいかが定まってない」からだ、と。いろいろ言いたいことがある。「ここは東京で、私はいま朝起きたばかりで、いまから朝ごはんを食べたいんです」っていうことがごちゃまぜになっていたり、また、一つひとつの事柄についても、なにが言いたいんだかわからないということが極めて多かったんです。
たとえば、「この会社の業績は非常に好調です」みたいなことを言うんですけど、業績ってなんだ? 、好調ってなんだ? っていうのが、紐解くとよくわかってない。売上も利益も株価も業績ですよね。また、他社と比較して「良い」のか、前後と比較して「良い」のか。非常に曖昧なことを多く詰め込んでる。
そういう例がすごく多くて、それを整えるだけでかなりスライドは良くなります。それだけではなく、思考もかなり整理されていきます。やっぱり、学びには順番がある、と確信しました。その一丁目一番地は、論理でもスライドでもなくて、「日本語」だと気づいたんです。
いまフィールドマネージメントストラテジーという会社の代表をやってるんですけど、うちでは元コンサルタントは一切採りません。
小山 仕事自体はコンサルティングですよね。
中村 そうです。いま、だれでもかれでもコンサルになってしまって、なんだかちょっとマーケットが水ぶくれしちゃってるところがありますし、ちょっとやり方を覚えると、これでいいんだと思いこんでしまって、アンラーニングがめちゃくちゃ大変なんですよ。
小山 なるほど。
中村 なのでやる気がある未経験者だけを採るようにしています。ゼロから学んでもらうために、まずは日本語から。これまでやってきたトレーニングを再構成して、プログラム化したんです。そして、日本語の能力が高まった人にはコミュニケーション。絶対にこの順番なんですけど、そのなかでも要諦と呼べるようなものがけっこうあります。
それで、若手が一人前になる速度がすごく上がったんですね。そんな話を出版社の方と雑談していたら、「それはおもしろいから、本にしませんか」ということで、うちの会社でやってる内容をサマライズしたのがこの本なんです。
小山 いま世の中にあるコンサル本で、日本語から入る本は、多分、ないと思うんですよね。まずは、論理から入る。でも論理は野菜とか具であって、器である日本語がまだ整っていない。
私もビジネススクールでケースを書かせるんですけど、まず文章になってない人がかなり多いことに驚きました。会社でそれなりの役職についている人でも、日本語が書けない人が多いんですよね。
日本文化に起因する日本語のあいまいさ
中村 これはですね、いくつか要因があると思うんですが、日本の文化に起因してるところがあるかなと思ってます。日本人は、とくに欧米と比べて、意識が揃ってない、同調してない、共感してないことを社会悪に見なす傾向があるんですね。
もともと自然豊かな国で、森がいっぱいあったり砂漠がなかったり、安全だっていうことに起因するのかもしれないですけど、非常に農耕的に「すり合わせる」ことを大事にする。そうすると言語ってどんどんあいまいになってくるんですよね。
アクセンチュアとかBCGでも、アメリカでは偉い人ほど具体的に指示します。コマンド&コントロール型で、順序も明確に指し示して、お前これやれ、あいつこれやれって具体的に指示します。日本人は偉くなると、どんどん言葉が抽象的になります。
たとえば私が小山さんに「私は2だと思います」って言ったときに、もし小山さんが「3」を想起してた場合には「違いますね」って言わざるを得ない。そうなると、共感できない、意識があってないってことになって、私と小山さんの関係が非常に悪いものだとお互いに思ってしまう。ものすごく気まずくなってしまうことが起こり得ます。
一方で、「5以下ですかね」とか「なんとなく多くはないですよね」みたいなことを言うと、「そうですよね」と、キャッチボールが非常に多くなって、やりとりしながら、2ぐらいかな、みたいな感じで、すり合わせていきますね。
議事録を日本語と英語で取ると、ワードの数は日本語を一としたら、英語で書くと三とか四になる。日本語はひとつの言葉に包含される意味が非常に多いので、抽象的な言葉でまとめやすくなってしまうんですね。日本語自体が極めて抽象的で、複数の意味を含む。われわれも、わざとなにを言ってるかわからないように操ってるところがあるんじゃないかな。これは私の観察で、合ってるかどうか知りませんが。
さらにソシュール※が言ってるんですけど、人はその思考を言語化するのでなくて、言語で思考する。[※フェルディナン・ド・ソシュール:スイスの言語学者、記号学者、哲学者]
抽象的な言語を操っているということは、思考まで抽象化されて、ぼやーっと…。
小山 自分でももやっとした感じで喋ってる。
中村 それってなんなのって聞くと「私もわかんないんです」って。
中村 日本語の抽象度の高さとか隠喩を含めた言を惜しむというのはぜんぜん悪いことではなくて、それ自体のよしあしは今回のテーマではないんですが、認識すべきは、ビジネス上のコミュニケーションで、またビジネス的な思考を深めるうえで、日本語というのは、とくに、英語やドイツ語に比較して、ディスアドバンテージがあるということ。これってすごい大事だなと思ったんですね。
だから、私はこのトレーニングのなかで、日本語というのもめちゃくちゃ大事にしてます。きれいに書くためじゃないです。美しく書く必要はぜんぜんないんですけど、思考を具体的に整理する、言いたいことをクリアにシャープにまとめるためにディスアドバンテージを持ってる日本語を磨いていく。これをしっかりやらなきゃなと思ってます。
小山 すごく共感します。ケースで支離滅裂な文章を書いてくる人も喋ってるとわかってるような雰囲気なんですよね。書くと言葉がしっかり残りますから、雰囲気では書けないですよね。「これはなんだ」「これは」「これは」って突っ込みどころがいっぱい出てくる。
それこそツールはフレームワークを含めて教えますが、やっぱり、足腰できてないのにフレームワークを知ったところで、砂上の楼閣で、わかった気になるし、本人も学んだ気にはなるけども、実際的に使えるまでにはぜんぜん落とし込めない。私も本当に実感するところです。
中村 なので、しっかり書けるようになって、書くように話すことができれば、他のことも飛躍的に良くなります。
日本語を磨くという意味だと、多義性の排除がいちばん重要です。本にも書きましたけど、藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ」という短歌がすごくいい例題だなと思っています。見渡したときに、桜も紅葉もなくて寂しいなと思う人もいれば、「ない」と言うことによって、満開の花を見るという人もいます。
われわれ日本人は、比喩、換喩が大好きですよね。野球にたとえて話したり。でもそれって、多義的に言葉を連想させてしまうので、これを排除することを心がけると非常に伝わりやすくなりますし、思考もクリアになっていく。そこがポイントとしてひとつあるかなと思ってます。
もうひとつ、ビジネス的にはひとつの文章にはひとつの意味を持たせること。「カレーもパンも食べたい」ではなく「私はカレーが食べたい」「私はパンが食べたい」と言うと、カレーの話でコミュニケーションエラーが起こっているのか、パンの話で起こっているのか、非常によくわかります。
多義性を排除する、ひとつの文章にひとつの意味、このふたつを注意するのはそんなに難しいことではないです。本にも書きましたので、ぜひ読んでいただければと。
小山 ある種の情緒ではあるんですけどね。でも情緒ではビジネスは進まないし、決定していかないといけない。決断は断ち切ることでもあるので、あまり情緒的にやってる場合ではないっていうことなんですよね。
中村 BMIAは「ビジネスモデル」に重きを置いて活動されてるということでしたので、そんな日本の文化とビジネスモデル、またはこれがポストコロナ、デジタル時代にどう変革したのか、私なりに議論のたたき台としてまとめてきましたので、みなさんから質問もいただきながら深めていけたらと思ってます。
(2)につづく
中村健太郎
株式会社FIELD MANAGEMENT STRATEGY 代表取締役
大学卒業後、ベンチャーのITコンサルティングファーム、フューチャーに入社。
その後、ドイツを本拠とする外資系戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガー、アメリカを本拠とするボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にアクセンチュアに参画。
通信・メディア・自動車・鉄道業界をはじめとする多数企業の成長戦略、新規事業戦略策定などを手掛け、技術トレンドにも精通し、ロボティクスや AI を活用した新規事業戦略策定/実行支援にも従事。
2022年9月にフィールドマネージメントに参画し、2023年1月1日よりFIELD MANAGEMENT STRATEGYの代表取締役を務める。
小山龍介(BMIA代表理事)
株式会社ブルームコンセプト 代表取締役
名古屋商科大学ビジネススクール 准教授
京都芸術大学 非常勤講師
ビジネスモデル学会 プリンシパル
一般社団法人Japan Innovation Network フェロー
一般社団法人日本能楽謡隊協会 理事
一般社団法人きりぶえ 監事
1975年福岡県生まれ。AB型。1998年、京都大学文学部哲学科美学美術史卒業。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。卒業後、松竹株式会社新規事業プロデューサーとして歌舞伎をテーマに広告メディア事業、また兼務した松竹芸能株式会社事業開発室長として動画事業を立ち上げた。2010年、株式会社ブルームコンセプトを設立し、現職。
コンセプトクリエイターとして、新規事業、新商品などの企画立案に携わり、さまざまな商品、事業を世に送り出す。メンバーの自発性を引き出しながら商品・事業を生み出す、確度の高いイノベーションプロセスに定評がある。また、ビジネス、哲学、芸術など人間の幅を感じさせる、エネルギーあふれる講演会、自分自身の知性を呼び覚ます開発型体験セミナーは好評を博す。そのテーマは創造的思考法(小山式)、時間管理術、勉強術、整理術と多岐に渡り、大手企業の企業内研修としても継続的に取り入れられている。翻訳を手がけた『ビジネスモデル・ジェネレーション』に基づくビジネスモデル構築ワークショップを実施、ビジネスモデル・キャンバスは多くの企業で新商品、新規事業を考えるためのフレームワークとして採用されている。
2013年より名古屋商科大学ビジネススクール客員教授、2015年より准教授として「ビジネスモデルイノベーション」を教える。さらに2014年には一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を立ち上げ、4年間代表理事を務め、地域おこしにおけるビジネスモデル思考の普及活動に取り組む。2014年〜2016年沖縄県健康食品産業元気復活支援事業評価会員。2016年より3年間、文化庁嘱託日本遺産プロデューサーとして日本遺産認定地域へのアドバイス業務。2019年〜2021年大分県文化財保存活用大綱策定委員。2020年〜大分県文化財保護審議会委員。2020年〜亀岡市で芸術を使った地域活性化に取り組む一般社団法人きりぶえの立ち上げに携わる。
2018年京都芸術大学大学院 芸術環境研究領域 芸術教育専攻 修了・MFA(芸術学修士)取得。2021年京都芸術大学大学院 芸術研究科 芸術専攻 博士課程 単位取得満期退学。2021年京都芸術大学 非常勤講師。
著書に『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』などのハックシリーズ。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』など。著書20冊、累計50万部を超える。最新刊『名古屋商科大学ビジネススクール ケースメソッドMBA実況中継 03 ビジネスモデル 』。
2013年より宝生流シテ方能楽師の佐野登に師事、能を通じて日本文化の真髄に触れる。2015年11月『土蜘』、2020年11月『高砂』を演能。2011年には音楽活動を開始、J-POPを中心にバンドSTARS IN BLOOMで年2回のライブを行う。ギターとボーカルを担当。2018年からフォトグラファーとしても活動を開始。2018、2019年12月グループ展覧会『和中庵を読む』に作品を出展。
写真・編集 片岡峰子(BMIA事務局長)