企業文化は戦略に従う
組織は戦略に従うとは、アメリカの経営学者チャンドラーが唱えた命題である。戦略を組み立てたら、それにあわせて組織を構築する。迅速に変化に対応するためにはフラットな組織が正しいし、一方で安定感のある、できるだけ間違いを侵さないようにするためにはヒエラルキー構造が適している。多様な顧客ニーズに対応するためにさまざまなブランドを展開する企業は、ブランドごとに独立させる事業部制を取ることが合理的だし、企業としての一貫性を維持し、親ブランドとしての整合性を取るのであれば、中央集権的な組織を選ぶべきだろう。組織に良し悪しがあるのではなく、どのような戦略を取るのかによって、取るべき組織の形が変わるのだと考えた。
「Building a Culture of Innovation」の授業ではそれを、「企業文化は戦略に従う」と考える。どのような成果を上げたいのかによって、適した企業文化は変わる。そしてその適した企業文化へと変化させるための打ち手を考える。組織のような目に見える構造ではないため、この変革にはすこし苦労するところはあるが、基本的な考え方は同じだ。多くの日本企業が、顧客の要望に答えるかたちで、従来の高品質・効率化してきたなかで、意識的、無意識的に構築された企業文化は、イノベーションに適さない。顧客ニーズの変化を先取りしてイノベーションを仕掛けていくような積極的な戦略の中では、あらたな企業文化が必要になる。
Googleが、Alphabetという持株会社を設立し、いまや巨大な収益事業となったGoogleと並列させるかたちで、新規事業・新規技術を位置づけたことは、新規事業に対する意思決定スピードを確保するためであった。しかし同時に、多くの法人企業を顧客とする収益事業における失敗が許されない企業文化が、失敗を前提とする新規事業にそぐわないものになってきたということがあげられるだろう。
有名なGoogleの20%ルールは、自身の勤務時間の20%を自由に使ってよいというものであったが、今では公に言わなくなっている。いまや相当な数にのぼる営業スタッフに、そのルールは適用できないからだ。2000年代初期までのGoogleと今のGoogleでは、おのずと企業文化に大きな違いが生まれている。持株会社化は、新規事業における先進的な企業文化を保護するためのものでもあった。
これは両利きの経営の議論にもつながっていく。知の深化と知の探索のふたつの異なる活動において、そこで求められる文化も異なる。同じ組織内で異なる文化を運用することの困難さが、両利きの経営を実現するための大きなブロックになっている。新規事業で生み出そうとしている製品のクオリティに、既存事業の厳しい品質基準を当てはめてつぶしてしまうケースを見るたびに、「頭でわかっているけれども、文化的に許容できない」というニュアンスを感じる。
行動を変えるために文化を変える。ここに、マネジメントの最先端の一つがあるように思う。
小山龍介
BMIA総合研究所 所長
名古屋商科大学ビジネススクール 教授
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小山龍介のビジネスモデルノート
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